ロストガール | ナノ


「なあ、ちょっと」



私が呼び止めると、鬼道はなんだ、とでも言うように足を止めた。私も足を止める。私の事情を知った鬼道には、言っておかなきゃいけない事があるんだ。



「なんだ?」

「あのさ、…その、鬼道は俺の秘密、知ってるけど、差別はしないで欲しいんだ」

「差別?」

「俺が、その、あれだからって手加減とかしないで欲しい。前と同じように接して欲しいんだ」



鬼道は私の今度に少し驚いたような様子を見せると、驚いたことにふっと笑った。今度は私が驚く番だった。予想外の反応に私がぽかんとしていると「お前は、」鬼道が言った。



「お前は俺がお前の秘密を知ったら、差別をするとでも思ったのか?」

「えっ?そのっ…」

「言っておくがお前に言われなくても俺は差別なんかする気は毛頭なかったぞ」

「そ、そうなの?」

「お前の口からそんな言葉が出ると思わなかったな」



どういう意味と捕らえていいのか解らずに首をかしげていると、鬼道はくすくすと笑った。笑うところがわからない。



「そういえば、あの時見た女はお前だったんだな?」

「あの時って?」

「円堂と風丸がいた時だ。ものすごく桃原に似た奴だとは思ったんだが、見た目がああだったからな。まさか同一人物だとは思わなかった」

「あ、ああ…あの時ね。あの時はもう参ったよ。まさか知り合いだとは思わなかったから。ていうか円堂と知り合いだったんだ?」

「まあな。お前こそ知り合いだったのが驚いた。桃原未来というのは本名か?」

「うん。まあ完全に女の名前だし、仮名を」



使ってたんだ、と言おうしたら前の方から「なにやってんだよ遅れるぞ!」なんて佐久間の声が聞こえた。そういえばひとり遅刻したら連帯責任で練習回数増やされるんだったっけ。慌てて走ろうとしたら、「桃原」鬼道に呼び止められた。



「な、なに?」

「お前がそうで良かった気がするよ」

「はっ?」



意味が解らずにいると鬼道はさっさと駆け出してしまって「桃原〜!」佐久間に怒られた。辺見がこっち睨んでることに気づいて私は慌てて走り出した。辺見、怒るとめんどくさいんだ!



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