ロストガール | ナノ




「おはよう、桃原」

「あ、おはよう。源田」



合宿二日目の朝、私は食堂で源田に話しかけられて挨拶を交わした。源田は私の隣に座ると、箸を持って食事をし出した。



「ていうかさあ、今日も昨日と同じ練習メニューなの?」

「あ、ああ。らしいな」

「あー…萎えるなあ」



朝食の魚を口に運びながら、やだなあと思っていると、隣に誰かが座った。誰だろうと隣に目を向けると、私の隣に座ったのは鬼道だった。鬼道だと知った瞬間、ぎくりと心臓が飛び出た気がした。鬼道は知らん顔で食事を続けている。私は覚悟を決めると魚を食べる手を止めて、隣にいる鬼道に話しかけた。



「鬼道、あのさ…」

「……昨日の事は誰にも話していない。…総師にも言われたしな」



そう。昨日、私は鬼道に見られたのだ。バスタオル巻いてたけど裸を。見られた後、慌てて私はいろいろ弁解して総師のところに連絡した。総師と三人で話した結果、私は帝国学園をやめずに鬼道が他言禁止ということになった。でもまさかバレるなんて思っていなかったからびっくりした。鬼道も相当驚いていたようで、しばらく頭を抱えたり、廊下を延々と右往左往したり、挙動不審な様子だった。どうやらさすがの鬼道でも相当こたえたらしい。



「そっか、ありがと。…あの、それと、」


「なあっ!なんの話?」



気がつくといつの間にかやってきた佐久間が後ろから割り込んできた。馬鹿、言おうと思ったのに。私がむっとして言い返そうとすると、鬼道が先に口を開いた。



「今日の練習の話だ」

「なんだ。珍しく桃原と鬼道が話してるから何かと思った」



佐久間はつまんねー、と呟くと自分の席について食事をし出した。すると次々に成神やら辺見やらが起きてきてしまったので鬼道に話しかけるタイミングを失ってしまった。仕方ない、後で話しかけるか。すると源田が話しかけてきた。


「桃原、あのさ」

「ん?なに?」

「桃原は、その…好きな人とか、いるのか?」

「はあっ?」



まさか源田の口からそんなことが聞けるとは思わなかった。佐久間とかだったらわかるんだけど。色恋沙汰にはまったく縁がないように見える源田が、まさか恋ばなとかするのか!



「い、いないけど。なんで?」

「いや、気になっただけだ」

「すげー意外…源田がそういうこと言うと思わなかった」

「そ、そうかぁ?」

「うん。そういうの興味ないって顔してるし。あ、そういえば源田はいんの?好きな人」

「あ、いや……」



困ったように言葉をにごす源田に私はピンと来て、思わず手を止めた。こいつ、好きな人いやがる。



「だれ?うちのクラス?」

「あ、いや、あの、」

「あ、違うんだ。じゃあ他のクラス?」



困っている源田を質問攻めするのは楽しい。私も一応女な訳だし、こういう話は好きだ。言っちゃ悪いが源田は女々しいからからかったりするのがすごく楽しい。源田はおどおどとしながら、「ち、違う」「やめてくれ」なんて言っていた。ああなんか、こうして見るとすごく可愛く思える。私が面白がって続けていると、いつの間にか朝食の時間は終わってしまった。ああ、残念!






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