ロストガール | ナノ





桃原と話をしようと彼の部屋を訪ねると、桃原はそこにいなかった。何処に行ったのかと疑問に思っていると、成神が頭をがしがしと拭きながら言ってきた。



「鬼道さん、桃原はまだ風呂ですよ」

「風呂?」

「風呂入る前に総師に呼び出されてましたから。ようやくさっき入ったとこみたいですよ」

「ああ、そうか」



総師に気に入られて転校してきたり総師に呼び出されたり、まったくよくわからない奴だ。確かにプレーは悪くないし、むしろ上手い方だとは思う。だが総師に名指しで呼び出されるほど飛び抜けているという訳でもない。それなのに総師に呼び出し。一体彼はなんなんだろうか。総師に聞いても何も答えてくれないし、桃原のことは謎につつまれたままだ。



「…ん?」



ふと桃原の部屋に視線がいって、あるものが目にとまった。それは数日分の小さな容器に入ったシャンプーとリンス。確か桃原は風呂に入るとか言ってなかったか。だったら風呂に持っていくはずだが、今ここにあるということは。


(忘れたのか…)


俺は近づいて二つの容器を手に取った。仕方ない。届けに行くか。






がちゃり、と脱水所のドアを開けると、中は風呂に入ったばかりでむあむあと湿気っていた。生暖かい湿気に眉をひそめ、中に足を踏みいれる。桃原はまだ風呂に入っているらしく、風呂場に人影が見えた。俺が持っているシャンプーとリンスを渡そうと、風呂場のドアを開けようとしたその瞬間だった、


がらり、と開けようとしていたドアが、開いた。


丁度桃原とばっちり目があった。桃原の目が、大きく開かれる。だが俺はそんな桃原の表情なんて、目にもとまらなかった。俺の視線は桃原の身体の方に向いていた。いや、くぎ付けになったと言った方が良いだろう。…なんだか俺が変態みたいだが、決してそうではない。桃原の身体が、ありえない体つきをしていたからだ。膨らんだ胸、細い足腰、くびれた腰、スラリとした脚。バスタオルを体の巻き付けていたものの、バスタオルは濡れていて体のラインははっきりしていた。それは完男なんかじゃなく、完全に女の身体だった。一瞬、本当に桃原なのだろうか、という疑問が浮かんだが、顔は間違いなく桃原自身のものだ。すると桃原の顔が大きくひきつった。失態をやらかしてしまい、しまった!という表情。まさか。おい、おいおいおいまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。


…そう、俺は気づいてしまったのである。

桃原が、女だということに。





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