ロストガール | ナノ
「俺、おかしくなったかもしれない」
「…はあ?」
授業も終わった放課後、これから部活行くぞ!という時に源田は意味のわからないバカなことを言い出した。おかしくなった?言われれば確かに、最近の源田はちょっと様子が変だった。ぼーっとしていることが多くなったし、珍しく部活に遅刻したり。些細なことでも源田とよく一緒にいる俺には手にとるようにわかった。それを今更、おかしくなったかもしれないなんて言われても心配するもくそもないと思う。
「意味わかんねぇんだけど」
「うん、俺もよくわからない」
「はあ?」
「なんか、なんていうんだろう、言葉にすると簡単なんだけどな…でもなあ………あー、ダメだ言えない」
「………」
相当おかしくなってきたようだ。源田は頭をがしがしとかきむしってうーんと唸った。俺はため息をつくと源田の前の席に乱暴に座った。仕方ないから聞いてやることにする。
「ほら、聞いてやるからちゃんと説明しろ」
「あ、ああ……」
源田は何から言えばいいかわからないみたいな困惑した顔をした後に、話し始めた。
「あのさ、佐久間」
「なんだ?」
「もしも、もしもだぞ。もしもの話だぞ」
「わかったからなんだよ」
「もしも、もしも俺が………ホモだったらお前、どうする?」
「はあっ!?」
椅子から転げ落ちそうなほど驚いてのぞけった。もしもホモだったら?あまりに予想外すぎる質問だ。俺のリアクションに源田は慌てて「もしもの話だから」と言ってきた。もしもの話だとはわかってはいるのだが、ちょっとあれだ。
「おま、いきなり何だよ!」
「だからもしもの話だ!ああもうやっぱり言わなきゃ良かった…!」
源田は「ああああやっぱし俺は駄目なんだ」ぐじぐじといじけてまた髪をかきむしった。ちょっと泣きそうな源田に俺は少しドキッとした。なめてみていたが、どうやら源田は俺が思ってる以上に悩んでいるらしい。これ以上悩まれてサッカーに支障をきたされたら困るし、こんなぐじぐじした女々しい奴と学校生活を共にするなんて正直嫌だ。俺は長くため息をつくと源田の方に向けて席に座り直した。
「…最初から、事細かに、きちんと説明しろ。それから聞いてやるよ」