ロストガール | ナノ
「帰る」
私がそう言うと、佐久間はもう来ちゃったんだから良いじゃないかとか言って逃がすまいとでもいうように肩を掴んできた。さりげなく痛くしやがってこいつ。ぎろりとにらむと、佐久間はニヤニヤしながら「まあ落ち着けって」なんて言ってきた。バカ佐久間!時はさかのぼること数分前、佐久間に指定された時間に指定された駅にやってきた。私が少し早めに来たのにも関わらず、すでに佐久間はそこにいた。数人の女の子のおまけ付きで。聞くと、どうやら最初から佐久間は私と源田と三人と、この女の子たち三人で遊ぶつもりだったらしい。女の子なんて聞いてない。もしかしたら男装がバレるかもしれないじゃないか。他にも理由があって私は帰ると佐久間に主張した。
「もう良いじゃんか。別に」
「良くない!聞いてないぞこんなの」
「別にいいだろ。もしかしたら彼女出来るかもしれないぜ?」
「要らないっての!」
口喧嘩しているうちに源田もやってきて、源田が佐久間にあっさりと説得されて私まで説得された。上手く丸めこまれてしまった。仕方なく行くことにしたが、バレないようにいつもより警戒することにした。そしてその佐久間が連れてきた女の子たちと(皆可愛らしい)自己紹介をしあった。エミちゃん、ユウコちゃん、ミサキちゃん。同い年とは思えないほど可愛らしくて大人っぽい。
「桃原くんって可愛いね、女の子みたいで」
「良く言われるよ」
「ねぇねぇ、蒼二くんって呼んでいい?」
見た目は全然違くても、中身はうちのクラスの女子と同じだった。同じようなことを話したり聞いたりしてくる。佐久間はユウコちゃんと話してて、源田はミサキちゃんと、私はエミちゃんと歩いていた。何故か自然にそうなったのだ。そしてそのままカラオケに直行した。源田は一曲しか歌わなくて、佐久間がすごい歌った。私は頼まれたら歌うみたいな感じで、私が女の子向けの歌を知ってるのを良いことに三人に引っ張りだこにされた。カラオケが終わったあとはみんな帰った。私たち三人は女の子三人とは帰り道が別方向で話さずに済んだ。正直女の子に男の子として話されるのはちょっと苦手だ。三人で帰っているとふと佐久間が聞いてきた。
「なあ、どうだった?」
「何が?」
「エミちゃんだよエミちゃん!結構可愛いだろ」
「ああ。まあ、可愛かったな」
「だろ?お前結構話してたしさぁ、アドレスも交換したんだろ?」
「うん。したよ」
「絶対エミちゃん、桃原のこと狙ってるぜ。あ、あと源田もあれはロックインされたな」
「はあ?」
「は?俺?」
「そのうち告られると思うから、それを期に付き合ってみろよ」
どうやら佐久間の今日の目的はこれだったらしい。私と源田に女の子を紹介する、と。多分私のラブレター云々の話で思いついたのだろう。桃原は恋愛に興味が無さすぎる、と。
「…付き合わないよ」
「なんで?エミちゃん可愛いじゃん」
「そうじゃなくて、あんまり恋愛って好きじゃないんだよな。興味ないっていうか」
「だからさ、いっかい付き合ってみろって!」
「無理」
だって私女だし。それは言えないが、私は佐久間にずっと「付き合わない」と言っていた。源田は言われておどおどとしていた。彼はそういう色恋沙汰は苦手らしい。多分知ってて佐久間は連れてったのだろう。なんだかものすごいニヤニヤしていた。もうドンマイ!源田!