モノクロ | ナノ


夢を見た。鬼道の夢。とても幸せな夢だった。とは言っても手を繋いだり楽しく話してたり、キスしてる激甘い夢みたいな夢なんかじゃない。ただ、鬼道が私の隣で微笑んでる夢。会話はなかったけど、私はとても幸せで嬉しかった。だけど今、私は日曜日だと言うのに間違って目覚ましをかけてしまっていた。じりりり、と機械的な音が部屋に響く。もちろん私は起きてしまった。かけ間違いモーニングコール。ボタンを押して音を止めると、ベッドに潜ったままぎゅっとシーツを握った。戻りたい。あの夢へ、戻りたい。現実じゃなくて色はないけど、幸せなモノクロ世界に戻りたい。戻りたい。胸がぎゅっとした。あれ?片思いってこんなに切ないものだったっけ?多分、これは今までで一番愛しくて切ない片思いなんだと思う。胸を焼き尽くすような恋が私にもできたようだ。なんだかもどかしい気分だ。私はあかりも点けず暗いまま、起きる気もないままシーツに深く潜った。暗い闇の部屋の中で、私の気持ちだけが闇に映えて、光っている気がした。



月曜日の朝。嗅ぎ慣れた電車の匂いが私の鼻をついた。私はホームに来て、いつも通りに鬼道の姿を探した。きょろきょろと辺りを見回す。いた。私はすかさず鬼道とつかず離れずの距離で近づいた。少し距離を取った、鬼道の隣。嬉しくて、幸せも感じられたけど、でもやっぱりすぐ隣で鬼道が微笑んでるモノクロ世界の方が、私は幸せだった。すると向こうの方から「鬼道!」鬼道の名前を呼ぶ声が聞こえた。鬼道が振り向き、私も視線だけ向けた。すると鬼道の近くに茶髪の、目の下にペイントをいれた男の子が立っていた。どうやら鬼道の名前を呼んだのはこの男の子のようだ。



「なんだ。源田か」

「ああ。ちょっと話があるんだが」

「なんだ?」

「佐久間のことなんだが、あいつ一度FWにした方が良くないか?」



…話の内容を聞く限り、ペイント少年の名前は源田。どうやら鬼道はサッカー部で(貴重な情報だ!)、源田もサッカー部らしい。それで佐久間とやらがFWかDFかで相談してるようだ。そういえば鬼道の声は初めて聞いたのだが、鬼道にぴったりな少年らしいテノールだったので違和感が全くなくて、初めて聞いた気がしなかった。あ、電車来た。それに気づいた鬼道と源田が電車に近づいた。私もその後に続く。今日は源田という鬼道の友達がいるから、鬼道の声が聞ける。どうやら今日一日、私はいつもよりも幸せになれるようだ。




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