モノクロ | ナノ



見慣れた駅で聞き慣れたざわめき声を聞いていると、聞き慣れたアナウンスが流れた。


「三番線来ます。黄色い線の内側でお待ち下さい」


今は通勤ラッシュよりも少し早い時間だから、そんなに人はいない。でもそれなりに人はたくさんいる。私はバッグを持ち直すと、ホーム内をきょろきょろと見渡してある人を探した。その人はいつもこの時間にこの場所にいる。今日もいるはずだ。すると自動販売機の隣で腕を組んで壁に寄りかかっている少年を見つけた。いた。あの人だ。私はさりげなくその人に近づいた。そんなに近くもなく、遠くもない距離で。ちらりと横目で見てみると、いつもと変わらない姿のその人。かっこいい。すると電車がやって来て、その人は電車に乗りに行ってしまった慌てて後を追いかけて、同じ電車に乗る。私とその人は同じ駅じゃないけど、行きの電車は同じなのだ。乗ってすぐ近くの右側のドア付近にその人は立っていた。私が左側のドア付近に立つと、丁度ドアがしまった。ぷしゅー、がたん。電車が出発した。私は携帯でメールするフリをして、その人を盗み見た。ラッキーなことに丁度バッグに書いてある名前を見ることができた。



(鬼道、有人)



初めて名前を知った。鬼道くん、か。私は内心でにやにやしながら、今度は本当に友達にメールをした。内容はもちろん、目の前にいる鬼道有人くんのことだ。






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