豪炎寺小説 | ナノ



夕方の公園。よくこの時間、この場所に来てサッカーの練習をする。いつもなら円堂やらが一緒にいるのだが、今日は俺一人だ。一人で黙々とサッカーボールを蹴っていると、聞き慣れた声が聞こえた。



「「豪炎寺!」」



少女特有のソプラノ・トーンと少年特有の少し低めのテノール。振り向くと桃原と円堂がいた。そういえば二人は幼馴染みだった。だから二人でいるのか。瞬間、二人でいるのを見たらなんだかもやっとした。この感情は初めてだが、俺はこの感情が何かを知っていた。だが認めるのが嫌で、というか認めると困るから、認められなかった。俺が心の中でそんな葛藤を起こしていると、俺に二人は近づいてきた。円堂と桃原は二人とも私服で、そういえば桃原の私服を初めて見たなと気づき、俺は桃原の私服をまじまじと見た。革のジャケットにジーパン。カジュアル系のその服はいかにも桃原が着そうな服で、普通に可愛い、と思ってしまった。



「俺も一緒にやっていいか?」

「ああ。構わない」

「豪炎寺、私もいい?」



桃原も?桃原もサッカーをやるのだろうか。俺の知る限り彼女がサッカーをやっているところを見た事がない。



「未来はこう見えてもサッカー上手いんだぜ」

「待てや。こう見えてもってどういう意味だ」



二人が話してるとまた胸がもやりとした。ああまただ。こんな感情、困るだけなのに。今まで色恋沙汰なんて全く縁がなかった俺にとって、それはどう対処したらいいのか全然わからなかった。ただぎゅっと締め付けられるようなこの感情を、コントロールするなんて無理だと、ただそう思った。



「守ゴールキーパーね」

「えーパス練しようぜー」

「いいじゃん。豪炎寺もシュート練習がいいよね?」

「まあ、どっちかっていうとシュート練習だな」

「はい2対1でシュート練習に決定。自動的に守はゴールキーパーね」

「ちぇ。未来、後で代われよ」

「えええぇえ」

「いいじゃねーか。お前ゴールキーパー上手いだろ!」

二人でぎゃいぎゃい言い合ってる二人を見て、また胸がもやっとする。
桃原を名前で呼び、話している円堂にいらつきを覚える。要らない感情だ、と胸を手でぎゅっと握った。こんな感情あっても無駄なのに。そう思ってるのに、そう思ってるのに桃原の笑顔を見て、幸せを、喜びを感じてしまう自分がいる。だからこんな、こんな感情も悪くないと思ってしまう。



「豪炎寺?」

「あ、な、なんだ」

「どしたの」

「な、なにがだ?」

「うーん、いや、何でもないや」



シュート練習やろう、とボールを転がし始めた桃原。円堂がゴールキーパーをやったので、必然的に俺と桃原は二人でシュートをすることになった。俺はその時また喜びを感じてしまって、もう認めざるは終えないんじゃないか、と思ってしまった。


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