豪炎寺小説 | ナノ



やばい。桃原とまともに顔を合わせられない。朝、桃原に教室で会っておはようと言われたが、まともに顔を見れなかった俺は桃原をまともに見ずに挨拶をして隣を通り過ぎた。桃原が訝しげに首を傾げていた気配を感じたが確かめる術も気もなく俺は席についた。その後円堂がそんな俺の様子を見てどうかしたのか、と聞いてきたが答えられずに(というか答えられる訳がない)そのまま一日を過ごした。桃原とは一回もまともに話すことなく終わった。部活に出ようとして、そういえば、と思い出した。この前桃原に部活に来るか、と誘ってしまった。今日来るかはわからないが、もし来たら困る。来たらたぶん、サッカーに集中できないんじゃないかと思うし。そんな不安を抱えつつ部室に行って着替え、校庭に出ると、円堂と風丸がいた。ここまでは良い。だが円堂と風丸の間に、桃原がいた。どきりとして一歩後ろに下がると、俺に気づいた円堂が桃原に「豪炎寺が来たぜ」と言うように俺を指さした。桃原がこっちを向いた。また心臓がどきりとする。桃原はこっちに向かって歩いてきた。俺は背を向けて逃げたかったが、桃原がまっすぐに俺を見て歩いてきたので目がはなせず、体が動かなかった。こいつ超能力でももってるのか。桃原は俺の目の前で足を止めると俺を見上げてきた。俺は思わずぎくりとする。



「豪炎寺」

「…な、なんだ」

「私なんかした?」

「…は?」

「豪炎寺に嫌われるようなこと、した?」



完全に誤解されている。桃原は何もしていない。むしろこっちがしたのだ。誤解は困る。というか嫌だ。かと言って「実は昨日お前にキスしちまったから恥ずかしくて顔合わせられない」なんて言える訳がない。とりあえず俺は桃原の考えを否定した。



「お前は何もしてない」

「じゃあ、何で私のこと避けたの」

「それはちょっと……言えないが、別に桃原を嫌った訳じゃない」

「ほんと?」

「ほんとだ」



理由を少し曖昧にしてしまったが確認がとれた桃原はそれで納得したらしく、良かったと笑った。



「良かった?」

「嫌われてなくて良かったなー、って」



…ということは桃原は俺に嫌われるのが嫌だ、ってことか?もしかしてそれは、つまり、俺は、桃原に好かれている、と。そう思った瞬間、歓喜が身体中を駆け巡った。まだそうだと決まった訳じゃない。あくまでも仮定の話でだというのに、わかっていても歓喜は身体中を駆けた。桃原が俺を好きな可能性がある。それだけで歓喜が身体を駆け巡る。思わず顔に笑みを浮かべそうになって片手で顔を覆い、桃原視線を外すと、



「豪炎寺が……照れた!」



ついにデレが、デレデレがきた!とか叫んでいる桃原に驚いた円堂と風丸、染岡までもがこっちに駆け寄って来た。嬉々として俺の事を話そうとしたのでそれはやめろと桃原を必死に止めた。



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