豪炎寺小説 | ナノ


最近友達がひとり増えた。そいつは女で、円堂の幼馴染み。名前は桃原未来さん。家がケーキ屋らしい。最初会った時、円堂が良く話していたので名前だけは知っていたものの、それ以外は何も知らなかったので二人っきりにされた時はどうしたものかと焦った。そこで俺は、桃原と友好的に話してみることにした。これは完全に円堂の影響を受けている、と思う。円堂と関わってまたサッカーを始められたし、人と関わっても悪い事はない、もしかしたら良いことがあるかもしれない。そう思って自分から話してみようと思ったからだ。ケーキを持ってくるという話になった時、ぶっちゃけかなり面倒くさいと思ったが、桃原と話しているうちにそんな思いは吹っ飛んでしまっていた。それは桃原は意外と面白い性格をしていて、話してても飽きない、というより、まだ知り合って間もないというのに何故だか昔からの知り合いのように思えてくるのだ。彼女に友達が多いのはきっとこのせいだろう。放課後、俺が忘れたプリントを取りに教室に入るとぽつんと広い教室に一つ、人影が見えた。誰かと思って近いてみると、それは今まさに頭の中で考えていた人物だった。桃原だ。桃原はロッカーに寄りかかってすーすーと寝息をたてて寝ている。机には学校指定のバッグが置いてあった。誰かを待っていて、そのまま寝てしまったのだろうか。
起こそうか、と思って肩を軽く揺さぶってみた。「桃原、おい」ところが彼女は眠りが深いのか、全く起きようとしなかった。別に無理にでも起こす気はないのでプリントを取って帰ろうと思ったが、ふと桃原に興味がわいて、彼女の顔を覗いてみた。相変わらず起きる気がないのか爆睡している。そっと、彼女の柔かそうな頬に触れてみる。ほんのりピンク色した頬は思ったよりもふにふにしていて、桃原が女と言うことを実感させられる。



瞬間、どきりと俺の胸が高まった。



なんだこれは。なんだか心臓がどくどくする。ぎゅっと胸の心臓部分を掴むと鼓動がさらに高まった気がした。気がついたら俺の手はそろそろと桃原の頬から唇に移動していて、桃原の唇をなぞるとなめらかな感触がした。何故だろう、また鼓動が高まる。



「、…未来」



名前を呼んでみる。苗字ではなく、名前を。



「未来」



言ってから、桃原の名前を口にするのは初めてだと気づいた。どくん。また心臓が、高鳴る。俺は無意識にゆっくり顔を近づけていて、無意識に自分の唇を桃原の額にそっと押し付けていた。ほんの少し経った後に桃原の額から唇を離す。相当やばい事をしている、という自覚はあったが何故か冷静でいられた。もっとしたい、という変態まがいの衝動を押さえて教室を出た。さすがにこれ以上はまずい。誰かに見られてるんじゃないか、という不安に駆られつつ、俺は廊下を歩いていった。



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