豪炎寺小説 | ナノ




最近豪炎寺とよく話すようになった。きっかけはあきらかにあの時守に二人っきりにされたことだ。最初は冗談じゃねー!とか思ってた私だが、案外優しい、可愛いところもある豪炎寺に私はきゅんきゅんときめいてたりしてる。そして今、私は豪炎寺リクエストのショートケーキを持って豪炎寺の家に向かっていた。歩きながら、今日サッカーの練習をしていた時の豪炎寺を思い出した。
男子っていうのはどんなにダサい奴でもスポーツをやるとかっこよくなると聞いたことがある。私は見たことがないからわからないが、私は性格がひねくれているので多分、素直にそいつをかっこいいとは認めないだろう。ところが豪炎寺の場合、元が良いからひねくれた性格の私でも素直にかっこいいと思って、私はそれを素直に認めてしまった。スゲーよ豪炎寺。色んな意味でかっこよすぎるよ豪炎寺。
私は別の意味で豪炎寺に惚れたのかもしれない。別の意味で。恋愛感情とは違う意味で惚れたのかもしれない。これは憧れ、だろうか。よくわからないが私は明らかに豪炎寺にひかれている。それだけは確かに言えた。私は右手に持ったショートケーキを意識した。豪炎寺……ショートケーキ、喜ぶかな。喜べばいいが。しばらく歩いて豪炎寺の家についた。私がおとないを入れるとすぐに豪炎寺がやってきて、家に迎えてくれた。やっぱり良い奴だ豪炎寺!



「あ、そうだケーキ」

「…やっぱり持ってきてたのか」

「ちゃっかり二人ぶんあるよ」



豪炎寺と、私のぶん。私が言うと豪炎寺は「そうか」と言って部屋にあげてくれた。そこで気づいたのだが守以外の男の部屋に入るの、初めてだ。あ、でもこの前守と一緒に入ったから初めてとは言わないか。部屋に入ってケーキの箱を開けると、生クリームの甘い匂いがふわっと広がった。分けようとして皿がないのに気づいた。私が言うまでもなく豪炎寺が「取ってくる」と言って皿を取りに部屋を出ていってしまった。豪炎寺良い奴。本気で良い奴。最初と比べたら豪炎寺に慣れた私は相当だと思う。だってすげかったもん。最初。目付き悪いしいっつも不機嫌オーラ全開だし近づくのも恐れ多いわヒィィィって印象だったから。今の豪炎寺の印象は…優しくて、かっこよくて……あー上手く言えないな。とりあえず良い奴。そんな感じだ。しばらくすると豪炎寺が戻ってきて、ケーキを食べながら色んな話をした。妹さんについて知ったのもその時だった。私がせがんだのだが、入院中、らしい。なんだか聞いた私が悲しくなってしまい、それが顔に出てたのか豪炎寺に「そんな顔するな」と言われた。気分転換に他の明るい話をしようとして、私は朝の守の様子を思い出した。ついでだし相談してみることにした。



「そういえば守がさー、今日の朝おかしかったんだよね」

「円堂が?」

「うん。なんか驚いてた。というより焦ってた?のかな」

「焦って……?」



豪炎寺は少し悩んだ後にああ、と実に明確な結論を出してくれた。



「俺がいたからだろう」
「豪炎寺が?」

「桃原と俺が一緒にいるのが珍しかったんだろう」

「あーなるほど。だからか…」


納得しかけて、そこでふと、豪炎寺がいて驚くのはわかるけど、焦ったように見えたのは何故かという疑問にぶつかった。私の見間違いかもしんないけど。豪炎寺にそう質問すると彼は目をぱちぱちと瞬きをし、わからないのか、と聞いてきた。



「わからないから聞いてる」

「……わからないなら、いいんじゃないか」

「え、なにそれ。私だけおいてかれた気分なんだけど」



私が言うと、豪炎寺はふっと笑った。そういえば豪炎寺の笑顔を見たの、初めてかもしれない。今まで笑わなかったってことはもしかして、今まで楽しくなかったってことかな。今笑ってくれたのはすごく嬉しいけど、でも逆に言えば今まで楽しくなかったってことになるから素直に喜べなかった。その時ふと、豪炎寺が口を開いた。



「今度、」

「え?」

「今度、サッカー部の練習、見に来るか?」



これには驚いた。まさか豪炎寺からお誘いを受けるとは。前に守に同じようなお誘いを受けたことがあるが、守が「見に来いよ!」という風な言い方だったのに対して豪炎寺の「見に来るか」というところがなんとも豪炎寺らしい言い方だ、と比べて思ったりした。それよりもなんて珍しいんだ。豪炎寺が私を誘うなんて。私は豪炎寺と知り合ってまだほんの少ししか経ってないが、それでもちょっとは豪炎寺を知っているつもりだ。そんな私が言うのは他の人から見て心外なのかもしれない。でもこれは豪炎寺と知り合って長いであろう守も珍しいと思っただろう。それほどに珍しいことだった。



「い、いいの?こういうのって他のメンバーの人にも許可とらなくちゃいけないんじゃ……」

「桃原なら皆歓迎するだろ。許可取るほどのことじゃない」



皆って……私はそこで初めてサッカー部のメンバーを数えてみる。まず豪炎寺に守、あとは風丸に半田…あとは松野と、…そういえば染岡もいたっけ。考えてみればサッカー部員のみんなと私は大半が知り合いだった。確かに豪炎寺の言う通り、みんな私を追い返すなんてことはしないだろう。むしろ歓迎して一緒にやらないか、とか言ってきそうだ(特に守あたりが。でも誘われても遠慮するけど)。



「うんまあ、確かに」

「来るだけ来てみろ。円堂も喜ぶだろうしな」



豪炎寺って説得力あるなぁ。……どっかの誰かと違って。誰とは言わないけど。




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