豪炎寺小説 | ナノ
豪炎寺は何故か守ではなく私の方を気にしてるらしく、ちらちらと私の方を見ている。当たり前だ。すると部屋中に軽快な音楽が流れた。その気違いな音に「あ」と守が声をもらす。どうやら守の携帯から発した着信音のようだ。守はぱかっと携帯を開くと(メールのようだ)内容を読んだ。守は内容を読むと「げっまじかよ」と声をあげた。
「俺呼ばれたから行ってくるわ!」
「はっ?」
ちょっ、ちょっと待てや。なんだってほぼ100%初対面の人と二人っきりにさせるんだ。私も帰る、という前に守は部屋からさっさと出ていってしまい、部屋には私と豪炎寺の二人っきりになってしまった。
「…………」
「…………」
気まずい。私が感じてきた中でもトップ3に入る気まずさだ。空気に耐えきれなくなった私はそろそろ帰ろうかと思った時、「なぁ」と豪炎寺が声をかけてきた。内心ものすごいびっくりしたが、私は「え、なに?」と返事をした。なにかと思ったら豪炎寺はとんでもない事をきいてきた。
「最近、円堂とは上手くいってるのか?」
「…はい?」
上手くいってる?なんじゃいそれは!彼女じゃないし!あ、まさか友達として上手くいってると聞いてるのか?その疑問も含めて豪炎寺に言ってみた。
「あのー、言っとくけど私、守の彼女じゃないよ」
私の言葉に豪炎寺は少し驚いた顔をして、「違うのか?」とか言ってきた。待て、どうやったらそんな誤解できるんだ。
大体そうだったらこんなところに豪炎寺と二人っきりにさせないだろ!どんだけ鈍いんだ豪炎寺。
「ぜんっぜん違う」
違うわボケェェェ!とツッコミたくなる感情を押さえながら私は全否定した。確かに守は好きだがそういう感情ではない。ていうか私守の彼女に見えたんたかい。だったら豪炎寺眼科行ってこいよ眼科ァ!そうすればただの幼馴染みに見えてくるはずだから!
「彼女じゃないし違うし彼女じゃないし」
「友達か?」
「友達というか幼馴染みかな」
「そうか」
「………」
「………」
や、やばいこの空気……!会話、会話だ。話題を出そう。とは言っても話題なんてすぐにでてくるもんじゃないし。いや諦めるな未来!お前ならできる未来!乗りきるんだ!あたしは必死に話題を持ち出した。
「…えーと、あの……あ、私の家、ケーキ屋なんだけど」
「ケーキ屋?」
「うん。知らない?商店街にあるケーキ屋なんだけど」
「知らないな」
「そっか。…あーあの、それで、ケーキ屋なんだけど」
「ああ」
「こ、今度持ってこようか、ケーキ…」
私が言うと、豪炎寺はきょとんとした顔をした。やっぱり図々し過ぎたか。謝ろうかと思って口を開こうとした時、驚いたことに豪炎寺の方から口を開いてきた。
「ケーキ…は、好きだ」
「えぇ?」
いきなり突っ拍子な事を言われて、思わず変な声をあげてしまった。豪炎寺は今言った言葉に訂正をせず、表情も変えずに続けた。
「ケーキ屋、なのか」
「う、うん」
「ケーキは好きだ」
「うん。さっき聞いた」
「……俺はショートケーキが、好きだ」
「……ショートケーキ?」
驚いて顔をあげると豪炎寺は頬杖をついて目をそらしていて、表情はよくわからない。私がきょとんとしていると、豪炎寺はいつの間にか私の方を見ていて、私はそこでようやく気づいた。
(ショートケーキが、欲しいってこと?)
よくわからないが、多分そういう事らしい。ふと、豪炎寺がまた目線を外した。その挙動不審な態度を見て私はそこでさらに気づいた。どうやら豪炎寺は、会話を繋げようとしているらしい。豪炎寺は私が出した話題を一生懸命に会話を繋げようとしていた。でも不器用で、一生懸命さが伝わってくるような感じだった。なんだ。意外と優しいじゃないか。怖さとは全く別のその優しさにギャップを感じて、私は思わず笑ってしまった。
「…おい、なんで笑ってる」
「な、なんでもないです」
「…………」
「しょ、ショートケーキ、今度持ってくるね」
笑いを誤魔化すためにそう言うと(でもやっぱり笑いは堪えきれない)、豪炎寺はむすっとした顔をした。これまた意外と可愛い面があってまた笑いが込み上げてきてしまい、それから私は笑いを堪えるのに必死になっていた(豪炎寺は不機嫌そうだったけどまたそれが笑いを誘った)。