豪炎寺小説 | ナノ



ぷるるる、ぷるるる、と機械的な音が何回か続いた。私が少し待っているとぷつ、と相手と電話が繋がった。さーっというちょっとのノイズの後に、まだ少し幼さが残る少年の声が聞こえた。



「もしもし?」

「あ、守?私。未来だけど」

「おー、未来か。どうした?」

「あーあのね、ちょっとね、話があってね」

「ん?なんだ?」

「あのさ、守には一番最初に伝えようと思って電話したんだけど、あの、…あの、」

「なんだよ?どうしたんだ?」

「…実はさ」

「なんだ?」

「………彼氏できた」





今日は雲ひとつない晴天だった。さんさんと太陽は明るく空に輝いていて、眩しいぐらいのまばゆい輝きだ。私は授業が全部終わった夕方前、迷わずまっすぐに部室に向かった。部室に行くと、ちょうどみんなが着替え終わって部室を出てきたところだった。私は出てきたみんなと挨拶を交わしながらある人が出てくるのを待った。しばらく待つとその人が守と一緒に部室から出てきたので私は風丸の疾風ダッシュの如くその人のところへ走った。



「修也っ」



名前を呼ぶとその人は私に気づいて微笑んでくれた。私はなんだか嬉しくなって、へへへと笑った。



「今日からマネージャーだろ?大丈夫か?」

「大丈夫!わからないことがあったら守とかに聞くし」

「馬鹿、俺に聞け」



なんて言うと修也は私の頭をわしわしと撫でた。すると周りから「ヒューヒュー」「熱いね〜」なんて声が聞こえてきて、なんだか恥ずかしくなって私は修也の手を頭からどけた。それでも未だにヒューヒュー言ってる松野と半田に私は思わず叫んだ。



「うるさい中途半田!」

「なんだよバカップル」

「残念でした。修也は馬鹿じゃありません」

「お前といると馬鹿が移るだろバカップル」

「半田といると中途半端が移る」

「やめろお前ら」



ぎゃんぎゃんと口喧嘩を始めた私の頭に修也はまた手をぽんと置いた。「言いたい奴には言わせておけばいいだろ」…確かに正論だ。私がおとなしくなったを見て修也は満足そうに笑うと、行ってくる、そう言って練習しに行ってしまった。私は頑張ってー、と修也の後ろ姿に手を振ると、秋たちに習ってマネージャーの仕事を始めた。マネージャーの仕事って意外と大変らしいけど、修也も頑張っているんだから私も頑張ろう。修也と付き合い始めてようやく2週間。私はなかなか好調な毎日を過ごしている。





思いっきり力を入れてボールを蹴った。力を入れたにも関わらずそれはゴールの網には届かずに、ゴールキーパーの手にしゅるしゅると回転しながらキャッチされてしまった。残念。失敗だ。だがキーパーは強くなったな!俺も負けてらんねーよ!と笑顔でボールを投げ返してきた。俺はボールを胸で受け止めた。するとキーパーの円堂がちょいちょいと手招きをしている事に気づいた。俺は円堂に近づいて「どうした?」と聞いた。サッカー馬鹿な円堂のことだから今のシュートに関してアドバイスでもするのかと思っていたら円堂の口から出てきた言葉は全く予想外のものだった。



「未来、最近元気になったよな」

「…ああ」

「前みたく元気で、明るくて……でも、前よりもっと幸せそうだ」

「ああ」



円堂の口から出てきたのはまさかの未来のことで、別に驚くほどのことではなかったが意外だな、と思った。そこで俺はふと、前から気になっていた事を聞いてみることにした。



「円堂」

「なんだ」

「未来のこと、好きだったんだろ」



これは俺が未来を好きになる前から気になっていたことだ。正直確信に近かったのだが、一応俺と未来がこういう関係になったのだし聞いてみようかと思ったのだ。



「…ああ」



ぽつりと円堂は呟くように言った。覚悟はできていたし、予想通りだったのだが、やはりその言葉は重かった。円堂の気持ちが過去形なのか、現在進行形なのかはわからない。でもそういう気持ちが円堂の中に存在していたことは確かだ。俺はさらに問いかけた。



「悔しくなかったのか」

「それゃ悔しいに決まってんだろ!…でも未来は幸せそうだしさ。俺が口出すなんて出来ないだろ」



円堂は変わらなかった。未来と幼なじみというポジションで、幼なじみとして未来の幸せを考えていた。円堂は俺よりずっと前から未来が好きだったのに、こうして諦めて、自分の幸せより未来の幸せを考えている。もし俺が円堂だったら、そんなことが出来るのだろうか。わからないけど、でもたぶんすごく悔しいんだと思う。円堂はそれを乗り越えてなお未来の幸せを考えていて。円堂はやっぱり強い、そう思った。精神的にも肉体的にも。だからこそキャプテンができて、みんなをまとめることが出来るんだろう。



「未来のこと、幸せにしろよ。泣かせたりしたらただじゃおかないからな。…それと」



もうひとつ言葉を付け足して、円堂は走って行った。俺はひとりでバカみたいにゴール前に立って、一人でぽつんと呟いた。



「泣かせたりなんか、する訳ないだろ」



呟いて、俺も円堂の後を追った。ちらりとマネージャー達の方を見ると、未来と目が合って手を振られた。今日は未来がいるからいつもより頑張れそうだ。ああでもこれから毎日、未来はマネージャーとして部活に来るんだった。じゃあ毎日頑張れそうだな、と思いながら、俺はボールを今一度蹴った。さっきの円堂の言葉を思い出す。




今日も明日も、これからもずっと相思相愛だと良いな。




それはきっと、誰もが思ったことだろう。悲しかったり、嬉しかったり、色んなことがあったけど、これからずっと相思相愛で、これからもずっと幸せになっていくんだ。だって俺は未来さえいれば、とびっきり幸せになれるんだから。





相 思 相 愛




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ようやく終わりました^^
みなさん数々の応援ありがとう!


20180224 by 百々
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