豪炎寺小説 | ナノ
「ごめん。私、染岡とは付き合えない」
私は今日、そんな風に言って染岡の告白を断った。私がそう言うと染岡はそうか、とさしも驚いていないような返事をした。だけどその一言には悲しみと悔しさが混じった深い意味を持つ言葉だったのだと思う。私にはそう思えた。しばらくの沈黙の後、染岡が口を開いた。
「悩ませて悪かったな」
「そんなことないよ」
「ならいいけどよ。…なあ、恋人じゃなくてもいい。友達ぐらいには、いさせてくれよ」
「うん。わかってる」
「それとよ、お前好きな奴でもいるのか?」
聞かれてうっと私は身を引いた。まあ確かに好きな人がいる、というのは私が断った理由のひとつだ。それに断られたら理由が気になるのは当たり前だろう。でも染岡に豪炎寺のこと言うのはちょっとな…
「い、いるにはいるけど…」
「豪炎寺だろ?」
「えっ」
「やっぱりなぁ」
何で染岡がそんなこと知ってるのだろう。そのことを知っているのは私ひとりだ。もしかして自分で気づいたとか?聞くとやっぱりそうだった。見てればわかる。そう言われた。そんなわかりやすいのだろうか自分。
そして至る今。ごうえ…じゃなかった修也に告白されてしまった。どうしよう嬉しすぎる。どくどくと心臓が脈打ち、血液が流れる音が聞こえた気がした。それほど私は興奮していた。お前だよ、と言われた瞬間身体中の血液が沸騰したみたいに身体が熱くなった。どうしよう嬉しすぎるんだけど。それに可愛いって言われた。やばい嬉しすぎる。その上に告白されるなんて。世界ってこんな簡単に上手くいくものだったっけ?私が何も言えずにいると修也が口を開いた。
「伝えたかっただけだ」
「えっ…?」
「お前には好きな人がいるんだろう?」
あれ。もしかして誤解されてる?「あのっ、ちょっと待ってっ」慌てて誤解をとこうと必死に説得しようと試みたけど喉がつっかえて上手く言葉が出てこない。すると修也がじゃあな、とか言って歩き始めた。今ここで帰られたりしたら私死にそうだ。私は修也の後を走って追うと修也の服の裾を掴んで止めた。
「まっ、待って!」
修也が驚いた顔で振り向いた。私は必死に息を整えて「あのっ、誤解!」と叫んだ。
「ご、誤解?」
「あの、私の好きな人の話っ」
修也は何がなんだかわからない、という顔をしていた。私は一度深呼吸をして自分を落ち着かせると修也の服の裾から手を離して、ちゃんと修也に向き合った。
「あの、私の好きな人はすごく良い奴で、それですごくかっこよくて、すごくサッカーが上手くて、守とも仲良くって、」
「…?」
「いま、私の目の前にいる人っ」
「…え?」
修也はぽかんと口を開けて立ち尽くしている。まさしく放心状態だ。私はふぅ、ともう一度深呼吸をして息を整えると、今度はちゃんと、はっきり言った。
「修也が好き」