豪炎寺小説 | ナノ
まさか鉢合わせするなんて思わなかった。頭がぐるぐるとめまぐるしく回って、ああもうやばいどうしよう。すると勝手に体が動いて私はその場から逃げ出した。
「ちょっ、待っ、」
後ろから豪炎寺の制止の声をかけられたけど私は無視して逃げた。するとがこんという音が聞こえたと思うと「痛っ」何かにどこかをぶつけたらしい。痛そうな声が聞こえた。思わず気になって歩きながら後ろを振り向いたら、「ぎゃっ!」花壇か何かに足をぶつけて思いっきりずっこけてしまった。スカートがひらりと舞うのがわかる。しまった。さーっと顔から血の気がひいた。やばい、今日スカート下に体操着履いてない!慌ててスカートを抑えて体制を持ち直した。
「、桃原」
ビクッとしておそるおそる振り向くと、豪炎寺が私の後ろに立っていた(右膝を手で抑えていたのは気にしないでおこう)。ぱ、パンツ見られた…?なんて考えていると豪炎寺が私にすっと手を差し出して来た。私がぱちぱちとまばたきをして唖然としていると、豪炎寺は「…大丈夫か?」と聞いてきた。どうやら豪炎寺は私を心配してくれたようだ。パンツ云々はまあ置いておくとして。私はおそるおそる豪炎寺の手をとると、立ち上がった。スカートについた土汚れをはらうと豪炎寺に誘われてベンチに二人で座った。前にあんなことがあったから少し気まずい空気が流れる。
「………」
「………」
「…悪かった」
「えっ?」
「あの、前にあんなこと、して。悪かった。すまない」
「う、うん」
多少ショックだったのでぜんぜん大丈夫だよ!とは言えないが、豪炎寺が好きと自覚したわけだし、今はむしろカモン!みたいな感じだ。というか、やっぱし豪炎寺は良い奴みたいだ。ちゃんと謝ってくれた。…ああ、そうだ。私は豪炎寺が好き、なんだ。そうだ。
「あのさ、」
「何だ?」
「染岡のこと、なんだけど」
「…ああ」
「断ることにした、んだ」
「…そうか」
少し時間を置いてから、「どうしてだ?」と聞かれた。聞かれるとは思ってたから驚きはしなかった。
「……好きな人が、できたから」
「好きな人?」
「うん」
まさかあなたです、なんて言えないけど。豪炎寺は私の発言に驚いたような顔をした。豪炎寺が驚くようなことだろうか。まあこの前は言わなかったし、驚いてもおかしくないだろう。
「誰だ、とは言わないが」
「うん?」
「…そいつは、良い奴か?」
私は豪炎寺の発言に思わず笑ってしまった。だって好きな人は、豪炎寺はすごく良い奴だから。笑ってしまった私を見た豪炎寺が怪訝な顔をしたので私は笑いながら答えた。
「うん、うん。すごく良い奴。最高だよ」
「そ、そうか」
「うん。すごく良い奴」
くすくすと私が笑うと豪炎寺はまるで頭にクエスチョンマークが浮かんでるような顔をした。まだ私が笑っていると(なんか止まらない!)、後ろの方から声が聞こえた。
「未来!豪炎寺!」
あ、この声は。私と豪炎寺が振り向くと、階段の所に守が立っていた。部活帰りなのかジャージだ。そういえば豪炎寺って何で部活出てないんだろうか。そう思って思わず豪炎寺の方を見ると、目が合った。「なんだ?」「ううん、なんでもない」私が首を振って答えると守が近づいて来た。
「二人で何の話してたんだよ?」
「別に。なんでもないよ」
「ていうか豪炎寺。お前妹さんの所行ってきたのか?」
「ああ。今はその帰りだ」
「そっか!あ、なぁ未来、お前ん家行っていいか?」
「守は私の家じゃなくてケーキ食べに行きたいんでしょー」
「ははっ。否定はできないな」
まあなんだかんだで私は守が家に来るのが嫌いじゃない、というかむしろ好きなので駄目とは言わなかった。私は豪炎寺も連れていくことにした。家に来て欲しいっていうのもあるけど、まあ、主な理由はもっと一緒にいたかったからだけど。三人で階段を降りていると、私はふと気になって後ろを向いた。そこには沈みかけた夕日があって、まるで私たちを照らしてくれているようだった。豪炎寺との仲を直してくれたのもなんだか、この夕日が照らしてくれていたおかげなように思えて、私は思わず薄く笑った。
「どうした?」
豪炎寺の声。歩いて来ない私を心配してくれたのか、立ち止まってくれていた。守の方は「俺が一番!」なんて言いながら階段をかけ降りている。小学生かアイツは。私は「今行くよ!」と言うと階段を降りていった。下の方にいる豪炎寺は珍しい事に何故か笑っていて、私が降りてくるのを待っていてくれていた。私が豪炎寺と同じ段に降りると、豪炎寺が私の少し前を歩き出しながら、言った。
「行こう、未来」