豪炎寺小説 | ナノ



「あれ?今日も部活来ねえの?」



放課後、ざわめく教室で半田に聞かれた。私が行かないと答えると半田は残念そうにそうか、と言った。



「次はいつ来るんだ?」

「え?別に行く予定はないけど…」

「マジで?参ったな…」



私が部活に行かないと半田が困ることでもあるのだろうか。なんだろう。人手が足りないとか?いやでも三人もいるし。風邪でもひいたのかな。半田に聞くと半田は困ったように言った。



「実はさ、円堂が元気ないんだよな」

「守が?」

「そ。桃原が来なくなってから急に元気なくしたんだよな。最近お前ら一緒に帰ってないからケンカしたとでも思ってたんだけど円堂に聞いたら違うって言われたし。なんかあったのか?お前ら」



確かに思い出して最近守と帰ることがなくなっていた。それどころかまともに話してもいないんじゃないか。接触が全くと言っていいほどない。確か今日、守は私に話しかけてきた気がする。だけどその時私は丁度豪炎寺と染岡のことを考えていて忙しかったからかなり適当にあしらったような。これじゃ守が元気ないのも当たり前だ。うわ、悪い事したな。



「確かに最近話してない…」

「だからか。あーあ、最近豪炎寺もなんかおかしいし、本当どうなってんだよ」

「ぎっ」



豪炎寺という名前が出てきてぎくりとして、変な声が出てしまった。あああ過剰反応!半田は私の過剰反応に驚いて「どっ、どうしんたんだよ」なんて聞いてきた。



「ななな、何でもないっ」

「おま、嘘つけ!」



その後半田に「豪炎寺となんかあったんだろ」「何があったんだ」「教えろって」などとしつこく聞かれて私は風丸の疾風ダッシュのごとく質問攻めしてくる半田から逃げた。半田のバカヤロー。今日今の時間、守は部活だし、守がいつも練習場所に使っている夕日の見える場所に行っても誰もいないだろう。最近は色んなことがあったから、今日でゆっくり考えておこう。あそこから見える夕日はすごくきれいで好きだし。よし決めた。私は校門から出ると家には向かわずに夕日の見える場所に行った。向かっている間、私は豪炎寺について考えた。半田が豪炎寺が元気がないと言っていたのを思い出したからだ。たぶん豪炎寺が元気ないのはやっぱりその、あの時のキスのことだと思う。多分豪炎寺は罪悪感を感じてるんだとは思う。だって今日ずっと暗い顔してたし。ていうか基本的に豪炎寺は良い奴だし。だって完全にあれは事故だ!でなきゃ豪炎寺があんなことする訳ないし。そうだ、事故だったんだよきっと。だけど事故とはいっても顔を合わせられる訳ないし、というか秋にあんなこと言われてからさらに豪炎寺を避けるようになった。なんか、意識しちゃうんだ。だってどうも私は、もしかしたら豪炎寺が好きかもしれないっぽいから。……うわああああ自分で言うと恥ずかしい。いやだってキス、嫌じゃなかったし、一緒にいると楽しい…というか嬉しいし、…ああああもう誰だよ自分!いつからこんな乙女になったんだよ自分!……結論から言うと、多分、私は豪炎寺が、好きだ。秋に言われてから色々と自覚症状が出始めたし。さっきの乙女みたいな行動と言動、それに思考が良い例だ。私は恋愛経験なんてかけらもない。そのせいで気づくのが遅くなったんだ。うん。…うわああああなんか自分乙女できもいな!そんな事を考えながらしばらく歩くと階段が見えて、悩みまくっていた私は躊躇いなく登って行った。登っているとベンチの所に人影があることに気づいた。誰だろう。こんなところに来る人なんてそうそういないのに。その人影を確かめようと階段をどんどん登って行く。登って行って、その人に近づいて行ってそこでようやく、「あっ」…その人影が誰だか判断できた。その人は私が今一番会いたくない人で、実は言うと一番会いたい人だった。でも会いたくない気持ちの方が強くて。ていうか豪炎寺の野郎なんでいんのさ部活じゃないのかよ!そんな内心でそんな葛藤をしていると豪炎寺が私の声を聞いて振り向いた。「……はっ?」どうも豪炎寺にとっても、私にとっても、私たちがここで出会うのは予想外だったようだ。じゃなかったらいつも冷静な豪炎寺があんな間抜けな声、出すわけないじゃないか。





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