豪炎寺小説 | ナノ


悩みを打ち明けて相談したら悩みが増えた。普通相談ってしたら悩みがなくなるものじゃないのか。しかし残念ながら私が相談した豪炎寺は悩みを増やしてくれちゃった訳である。意味がわからないのだがキスされたのだ。私何かしましたか豪炎寺。なんでだ。意味がわからない。豪炎寺の意図がつかめない。でも不覚にも泣いてしまった私を豪炎寺が慰めてくれた時は嬉しかったし、キスされた時には嫌な感じはなかった。考えてみれば豪炎寺はどちらかというと好きな方に入る。ただ許せないのはあのキスがファーストキスだったことだ。私だって一応は女の子、ファーストキスだってちゃんと好きな人と、ちゃんとした時にしたかった訳である。だけどその願いは残念ながら叶わず、付き合ってもいない豪炎寺に取られてしまった。豪炎寺は嫌いじゃない。さっきも言った通りむしろ好きな方に入る。だからといって女の子のファーストキスを取るなんてことは許されないと思う。そう。許されないんだ。

…とは思うのだが。



「何でだろうなあ……」



休み時間、女子トイレで手を洗いながらなんとなく独り言を言うと、私の後ろにいた秋が「どうしたの?」と聞いてきてくれた。この私のクラスメイト、木野秋は優しい子で、 気配りも良く皆になつかれるタイプの子だった。ふと、そういえば彼女はサッカー部のマネージャーだったな、と思い出したらサッカー部というキーワードから豪炎寺という名前が頭に浮かんできて慌てて頭の中から掻き消した。今日豪炎寺という全てのものから避けてきたのだ。朝は早めに登校して豪炎寺に会わないようにしたり、教室で会っても見て見ぬフリしたり、友達が豪炎寺くんかっこいい伝伝と言うなれば話を無理矢理曲げたりしたり。とまあ異常なほどに避けてきたというのに私の頭の中に現れたんじゃ意味がない。何故こうするのかと言うと、豪炎寺というキーワードを聞いたり頭に浮かべたりすると昨日のあの唇の感触がよみがえるからだ。ふにっとして柔らかくてほんのり温かいあの感触…ってああああ思い出したくないのに!



「なにか悩み事?」



聞かれてはっとなる。そうだ。今は秋と話してるんだ。自分の世界に浸ってる時じゃない。



「うん、そうなんだけどさ」

「私で良いなら聞くよ?」



少し悩んだ後に悩み事を打ち明けることにした。秋なら他の人に言うなんて裏切り行為はしないだろうし、適切なアドバイザーでもあるからだ。私が豪炎寺の名前を出さずに悩み事を打ち明けると秋は、そんなの簡単だよ、と言ってきた。



「未来ちゃん、その人のこと好きなんだよ」

「…………は?」



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