豪炎寺小説 | ナノ
桃原が元気がない。
朝から気になってはいたものの、聞き出せずにいたのだが四時間目で桃原が授業中になにやら手紙らしきものを読んでいることに気づき、しかも桃原の顔色が明らかに変わっていた。原因はどうやらあの手紙にあるらしい。給食の始めにどうしたのかと聞いてみたが、大丈夫だと流されてしまった。あいつを見る限り120%大丈夫じゃない。昼休みに入ってから桃原が慌てふためいた様子で教室を出ていった。気になる。他人事とはいえ相手は桃原だ。気になる。俺は興味がわいてしまい、名無しさんの机からさっきの手紙を取り出して、読んでしまった。読んでみて唖然とした。
桃原が好きだ。
今日の昼休み
体育館裏で待ってる。
白い紙にただぽつんと拙い文字でそう書いてあった。字からして男であることは間違いない(というかそうじゃなきゃ色んな意味で困る)。体育館裏に呼び出し。ワンパターンに見えて告白には一番適切な場所だ。知ってしまった俺は何も考えずに桃原を追って体育館裏に向かった。別に引き留めようとかじゃなく、気がついたら勝手に体が動いていたのだ。体育館裏に着くと先客がいた。名無しさんじゃない。体育館の物陰から体育館裏を覗いている。相手の男だろうか。近づいてみるとそれは俺の良く知る人物だった。
「円堂!?」
「あれ?豪炎寺か?」
「おい、まさかお前……」
俺が聞こうとすると、いきなり円堂は「しっ!ちょっと静かにしろよ」と体育館裏を頭を出してさらに覗いた。「なにやってるんだ」「あれだよ、あれ」小声で会話しつつ円堂が「あれ」と指さした方をみると名無しさんがいた。そしてその桃原と対峙するように立っているのは、
「染岡!?」
「馬鹿っ、黙れって」
思わず声をあげてしまった俺に円堂が注意をした。悪い、と円堂に小声で謝ってから二人に視線を戻した。まさか、桃原を呼びだしたのは染岡だっていうのか?二人をじっと静かに見ているとうっすらと会話が聞こえてきた。
「ほっ、本気?罰ゲームとかだったら正直に言ってくれよ」
「本気じゃなかったら言わねえよ。罰ゲームでもねぇ」
「………」
ふと染岡に違和感を感じた。確か桃原に対する染岡の態度はもっと、こう……軽い、おちゃらけた感じの、昔からの友達みたいな態度だったのに。今はまるで違った。まるでサッカーをしている時のような、鉄鋼のような頑固さとドラゴンのような鋭い眼差しを持つ、強く真剣な眼差しの染岡だった。桃原はそんな染岡を初めてみるのか、手をふらふらと右往左往させていたりとかなり慌てている。もはや慌てるを通り越してむしろ挙動不審だ。
「で?どうよ。返事は」
「ええええぇええぇえ今言うのっ?」
「たりめーだろ」
「せっせめて一週間」
「三日だ」
「五日!」
「……四日」
「乗った!」
まるで利益の分前をしているような会話だ。桃原は「四日…四日か…」と独り言を呟いている。二人はしばらく話して「四日後の昼休みに同じ所で返事を聞く」という約束をたてた。
「あー、じゃあ俺教室戻るわ」
「う、うん」
「あ、教室で気まずくするのなしな。いつも通りで」
「…うん」
「じゃ。考えとけよ」
染岡は桃原の頭に軽いデコピンを食らわせるとこっちに向かってあるいてきた。「(あっやべっこっち来るっ)」「(体育館に隠れろっ)」体育館内に入って染岡から姿を隠す。染岡を気づいていないらしく普通に通り過ぎて行った。後から桃原も教室に戻っていったのを確認してから俺たちも教室に戻った。その後、桃原は放課後も元気がないままだった。むしろ悪化したんじゃないかと思う。最近、いつも見学兼マネージャー助手という形で来ていた部活も今日は来なかった。桃原の事を考えていたら練習に集中ができなくて鬼道に怒られた。何故か円堂も同じことで怒られていた。