シークレット・エンド | ナノ
ピオニー・ウパラ・マルクト九世。その名の通り、マルクト帝国現皇帝だ。そして俺が手紙でやり取りしていた上客であり友人。前にグランコクマの王宮の庭(と言っても広い)の中でブウザギ捜索依頼があったりしたから、俺みたいな流れ者を王宮の敷地内に入る許可を出せるようだったから爵位かなにか持っている位の高い人物だとは思っていたが、まさか皇帝とは思わなかった。
あれやこれやと皇帝陛下との過去を思い出していると、ジェイドがふと話かけてきた。


「あなた、陛下にブウザギの捜索を依頼されたことがあるでしょう。王宮で」
「ああ。一度だけ。それがなにか?」
「気づきませんでした?陛下が近くであなたの事をのぞき見てたんですよ」
「ええっ?」
「意外な外見だったと言ってました。あんな若々しい好青年だとは思わなかったと」
「……」
「ずいぶん年上に見られていたようですねぇ」


確かに、あの時はまだ歳は聞かれていなかったから言っていなかった。あの依頼のあと手紙で歳を聞かれたのはそのせいか。どうやら二十代後半〜ぐらいに思われていたらしい。手紙では今年で17だと正直に話したが。それから自己紹介が始まった。茶髪の少女の名前はティアと言うらしい。俺とガイはそれぞれ握手を交わした。だがティアの番になるとガイはざざざっと後ろ向きに後進した。


「何…?」
「わ、わるい…き、君がどうとかじゃなくて…!」
「ガイは女嫌いなんだ」
「というよりは女性恐怖症のようですねぇ」


一度だけガイが女の人に街中で絡まれて困っているところは見たことはあったが(だけど顔があからさまに嫌そうでいまにも泣きそうだったので助けに行ってやった)、こんなふうに女の人からざざざっと離れたりしているところは始めて見た。ガイは俺の正体には気づいていないから俺にそんなことしたりはしないが。手を握るとか直接触ったりなんだりの親密なボディタッチをしていないだけだから、ばれていないだけかもしれない。拒否の反応をされたティアは少しだけ悲しそうな顔をしたが、すぐに顔を引き締め、自分は女だと思わなくていいと言った。ガイはそれに対していくらなんでもムリムリと首を横に振った。俺がそんなガイを見て苦笑して、声をかけようと彼に近寄った時だった。
全身がぞわりとする、心に影が入り込むような感じがした。慣れてしまったこの感覚は、間違いなく殺気。それも複数。
俺が咄嗟に振り向いた時には、装備をした兵士が数人、それぞれの武器を持って駆け寄ってくるところだった。おそらくは、さっきの奴らだ。俺は腰のサーベルを抜いてにやりと笑った。
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