シークレット・エンド | ナノ
俺は男じゃない。一人称こそ"俺"なのだが、体はれっきとした女だった。
俺が男装しているのにはまたやかましい理由があった。男装を始めたのは五年前ぐらいだろうか。その五年前に身分のせいで命を狙われるという出来事があり、それから自分を守るために男装を始めた。身分は隠していたのだが、顔を見られるとどうしようもない。そのための男装だった。
ガイは女性恐怖症らしい。もしかしたら、彼は気づくかもしれない。俺の本当の姿に。その時はその時だが、まあ大丈夫そうなのでタルタロスまで共にいることにした。




「テオ、やっぱり強いな」


魔物に襲われ、ふたりで倒した時だった。サーベルについてしまった魔物の体液を拭いていると、ガイが声をかけてきた。ガイの武器は細いから、振るだけで体液は落ちるが、俺のサーベルはそうはいかない。
俺はサーベルを拭き終わり、腰の鞘に戻しながら、「普通だよ」と苦笑いしながら返した。


「だってテオ、俺が一匹倒してさあ次だ、って振り向いたらもう倒しちまってんだもんな」
「はは、たまたまだよ」
「おいおい、実力だろ?」


ガイは笑って言った。久しぶりにこんな善意な人間と話すもんだからちょっと戸惑うところもあったが、彼は話しやすい人間だったので助かった。
その日の夜、町から離れ必然的に野宿になり、たき火をしながらガイと"ルーク"という人間の話をした。


「ルークってさ、俺のご主人様なんだけど、これがまたとんでもない世間知らずで」
「へえ。よほど身分が高いんだな」
「キムラスカの第三王位継承者さ」
「…王族じゃないか」
「ああ」
「そんなこと俺に話していいのか?」


言わずもがなここはマルクトの領地だ。そして自分はマルクト国民。今のマルクトとキムラスカの関係を考えると、キムラスカの王族がマルクトにいるなんて知れたらそれはそれでいろいろと問題になるわけである。だがガイはマルクト国民である俺にそれを話した。これはどういうことだろうか。


「テオは言わないだろ?ていうか、言うような奴じゃないと、俺は思うんだけどな」


にかっと笑いながら言うガイ。俺の仕事は信用第一、信用が大事になるから信用云々はわりと慣れているが、こういうガイみたいな善意ある信用というのは初めてだった。俺は少し驚いた。


「ガイは優しいな」
「なんだよいきなり。なにがだ?」
「この前会ったばっかりの俺を信用してくれてる。甘いとも言うけどな」
「はは、それもそうだな。俺は確かに甘い」
「まったく…」


俺は別にそれを国王に密告しようが大した得にはならない。むしろそれが原因で目立ったりすれば仕事がやりにくくなる。むしろ損だ。それをわかっているのかわかっていないのかガイはのんきに笑っている。俺はため息をついて夜空を見上げた。そこにはいくつもの譜石たちが俺達を嘲笑うかのように見下ろしていた。
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