リハビリ | ナノ
私は神様、あなたの願いを叶えてあげよう。…なんだいなんだい、その態度は。こうして私が直々に人に会っちゃったりするのって実はすごくすごく珍しいんだからさ、感謝しなよ。まったく最近の人間は神様にもうちょっと感謝の意を示すべきだよね。…失礼な。本物さ。何か簡単な馬鹿なこと願ってみなよ。やってみせるさ。…ほら手が三本〜。……ああそうそう。今日はね、君を間違って殺しちゃったからさ、転生先ぐらい選ばせてあげようと思ってさあ、こうして直々に…。そう言わないでよ。私も好きでやったんじゃないよ。謝ってるじゃん。さあ人間は輪廻するものなのさ、転生先はどこ?金持ち屋敷?…トリップ?はあ…別に構いませんが、りぼーん?はいはい、いいですよ。はいさよならー。







なんて馬鹿なことをしたのだろう。

私は熱を持った痛みのするお腹に手を添えながら、ぼーっと目の前に広がる建物に挟まれた曇り空を見上げた。どこかわからない外国のゴミがいっぱいある汚い路地裏、その上に私は血まみれで寝転がっていた。腹には深くナイフが刺さり、足やら腕やらに数え切れないくらいの無数の切り傷。私はもうすぐ自分が死ぬと自覚していた。ぼーっとして、意識が薄れている。麻痺したのか痛いはずなのに何も感じない。うすれゆく意識の中、私の視界にふっと金色が現れた。


「あんたさ、結局何者だったわけ?」
「………」
「答えろよ。喉切らないでやったんだからさ。なんで俺の名前知ってんの?暗殺にしてはひ弱すぎだし。ていうかあんた俺に殺意なかったよな。意味わかんねーんだけど」
「……」
「なんとか言えよブス」


トリップしてから私は知らない外国の路地裏にいた。そしたらベルが現れたから、私は声をかけたのだ。愛しいベルフェゴール。現代日本女子高生の私が、愛した人。馬鹿だった。無作為に近づいた私に、暗殺者であるベルが警戒しないわけがない。結果私はプリンスザリッパーに切り裂かれた。ベルはなにも言わない私の頭を足で小突く。


「あーあ、んだよ。つまんね。死ぬのかよ。ほんとなんだったわけ?キモいし」
「……」


あなたに殺されるなら、それはそれで幸せなのかもしれない。あなたに会えただけで、それだけで、私は、幸せなのかもしれない。私は―――――


「…ベ…ル」
「あ?」
「……愛してる」


私はそれから狂ったようにその呟きを繰り返した。愛してる愛してる愛してる愛してる。誰よりも、世界で一番、愛してる。あなたに会えて幸せ。


「殺してくれて、ありがとう」


ベルは怪訝な顔をした。そんな言葉を言われたのは初めてだった?ねえ、ベル、あなたの人生に、小さくても、影響を与えられたかな?少なくとも、あなたの人生に私は関わったんだよ。それが私には幸せなんだよ。ねえ、ベル。


「お前…マジでなに?」


残念ながらその答えは出せないや。声が出せないんだ。意識ももうなくなる。私はせめて最後に、と唇を動かした。



(愛してるよ)



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