小説 | ナノ
私の知り合いには世界一の剣豪になると言ってる人がいる。彼は絶対なってやると言っていたし、私も絶対そうなると信じていた。なのに彼はどこで道を間違えたのだろう。海賊の仲間になるなんて。
「久しぶり、ゾロ」
「ああ?誰だてめえは」
行き着いた町でたまたま会った旧友のゾロに声をかけた。彼は相変わらず物覚えが悪い。変わらないなあ、と私は思わず口元に笑みを浮かべた。
「旧友を忘れた?」
「旧友?…ああっ?お前未来か!?」
「久しぶり。元気そうで良かった」
「本当に久しぶりだな!何年ぶりだ?」
「そんなに経ってないと思うけど…大体2、3年かな」
「てめえも相変わらずだな。男勝りの性格も変わらねぇ。少しは女らしくしたらどうだ?」
「そんなことできるか。……それに聞いたよ、ゾロ。海賊の仲間になったとか」
「ああ。ルフィのことか」
「世界一の剣豪はどうしたんだ?」
「今でも目指してるぜ。お前の方こそ、お前の夢とやらは叶えられたのか?」
私の、夢。それは彼がいないと絶対に叶えられない夢だった。私の夢、ゾロには言えなかったけれど、それはゾロと一緒に剣豪を目指すこと。いや剣豪なんてどうでもいい。ただゾロとふたりで旅をしたかったんだ。だけど言えなかった。私に勇気がなかったせいで、ゾロは行ってしまって、先に仲間を見つけてしまっていた。私はゾロが行ってからしばらく経って島を飛び出した。夢を、忘れるために。確かにそれはできた。だけど私の胸にはぽっかりと穴が空いたような感じがあった。まるで何かが欠けたような、そんな感じ。この欠落を埋めてくれるのは彼しかいないのだけれど、彼が埋めてくれる訳もなく。きっと私は今もこれからも、この欠落を胸に残し、刻まれたまま生きていくのだろう。
「なあ、未来」
「なに」
「お前、変わらず一人旅か」
「そうだけど……それが?」
「なら一緒に来ないか」
「……えっ?」
もしかしたらこの欠落は埋まるのかもしれない。絶対にあり得ないことだと思っていたのに、それが起こった。ああ、神はまだ私を見放してはいないのかもしれない。出来るなら、可能なら、彼と一緒に旅をしたい。二人きりとはいかないけれど、それでも十分だ。一生胸に刻まれたはずの欠落は、彼が、ゾロが手を差し伸べてくれたことで、私のミッシングは消えた。仲間になれるのなら、私はずっとずっと、彼のそばにいよう。私の新しい夢は、それから始まるのだ。
ミッシング消失
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