小説 | ナノ
私の嫌いな埃っぽい匂いが漂う車の中、私は携帯のアドレス帳を開いた。さらに1と表記されたそれを開く。電話番号のところでボタンを押して電話をかける。耳に携帯を押し当てるとコール音がした。少しのコール音の後に、ぷつりと繋がった音がした。


「もしもし?」
「シンデレラか」


電話で声をかけると男の声が返ってきた。声の主はジンさん。私の所属する組織の人間で、私の上司だ。といっても十代である私に出来ることはたかが知れているので、あまり彼から電話は来ない。
私の育ちは組織だった。生まれは知らない。ただ気づいたら組織にいて、私を産んで死んだ母親の数少ない友人(らしい)ジンさんに組織に所属させてもらい、こうして生活出来ている。ジンさん曰く私の母親に大きな借りがあるらしくその借りを返すために私を育ててくれたらしい。
コードネームも貰った。シンデレラ。ノンアルコールのカクテルの名前。一滴もアルコールの入っていないこのカクテルは、組織での私のコードネームになっている。ジンさんを含め組織の皆はウォッカやシェリーなどの酒の名前なのに私のだけノンアルコールカクテルなのは、私がまだ十代の未熟者であり、組織の下っ端の人間である証である。
まあ表向きはシンデレラではなく本名を使っている。私は表向きの生活が大半なのでシンデレラと呼ばれてもあまりピンと来ないが。


「電話しましたよね。なんですか?」
「任務だ。車の中にある鍵を今から指定するコインロッカーの中に入れろ」
「場所は?」
「***駅の近くに本屋がある。あそこのふたつ右隣にあるコインロッカーだ」
「了解」
「気をつけろよ」
「…ジンさん、それいつも言うよね。私みたいな下っ端の人間に、なんで?」
「あんたの母親に借りがある」
「死んだのに?」
「死んだから、だ」
「…そうですか。そろそろ任務に行きます。さようなら」


ぶつりと電話を切り、ポケットに入れる。車の中、これは指定されなかったが恐らくは―――
シガレットケースを開けると、中に銀色の鍵が入っていた。ジンが何か車の中に入れる時はだいたいはシガレットケースの中だ。私はそれをとりだすと、ポケットに突っ込んで車を出た。





電話を切られたのを確認すると、俺は携帯を椅子の上に投げるように置いた。久しぶりにシンデレラの声を聞いた気がする。だが顔はかなり前に見たのが最期になっている。ノンアルコールカクテルのシンデレラという名前の彼女は、組織の中でも下っ端の人間だ。何故十代であり何の能力のない、組織にはまるで重要じゃないシンデレラが組織にいるのか。理由は簡単だった。それは彼女が――ジンの娘だからだ。これを知っているのは組織のボスだけだ。シンデレラには告げていない。ジンは彼女が生まれた時他の誰かに育てさせてやろうかと思ったが、自分の目の届くところに置きたいという感情が強く出てしまった。だからジンは手を回して組織に所属させた。
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