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「お前は弱いよ」



今目の前にいる男がひどく腹立たしい。今なら人を殺せるんじゃないかというぐらい腹立たしい。怒りだ。怒りが私を支配していた。そしてその怒りは私の目の前にいる男、ヨハンに向けられていた。私はデュエルに関しては今まで全戦全勝、全て勝利で収めていた。私はそのことにそれなりの誇りとプライドを持っていたし、敗北なんて考えたこともなかった。なのにコイツは、私のそのプライドと誇りを汚したのだ。負けた。私にとってこれ以上の屈辱はない。しかもヨハンは、追い討ちをかけるように私に弱いと告げたのだ。私が弱い?私は強いのだ。弱い訳がない。私が弱いなんてあり得ない!



「私は強い!」

「確かに…確かにお前は強い。だけどお前は弱いんだ。俺たちはお前に持ってない大切なものを持っているから」

「大切なもの?そんなものがあったって弱くなるだけだ」



大切なものなんて私にはない。あっても私は全てを切り捨ててきた。強くなるため。強くなって、強くなって……それから?それから私はどうするつもりだったのだろう。いや、そんなことはどうでもいい。もう引き返せないのだから。足手まといは切り捨てる。それでいいじゃないか。



「私は強い。弱くない」

「弱い。桃原、お前は弱いんだ」



もう頭にきた。うるさい黙れ。私は強い弱くなんかないんだ。私はテーブルの上にあった水の入ったジョッキを手にとると、ヨハンの頭の上から躊躇いなく水をこぼしてやった。ジョッキ一杯分の水を浴びたヨハンはびしょびしょになった。水が鼻に入ったのかげほげほと咳き込んでいる。あはは、ざまあみろ。



「はっ、水も滴るいい男ってか?」



私が鼻で笑うとヨハンはゆっくりと頭を上げた。私を見据えるその目。やめろ、私はその目がだいきらいなんだ。だってそのめはむかしのわたしのめとおんなじめだから。ああやめてわたしをみないで。



未来、好きなんだ」



ああダメだ。この男にはかなわない。




臆病な私を黒く塗り潰す



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