小説 | ナノ


あれから野田の攻撃がぴたりと止んだ。私は常に警戒していたが野田の攻撃は一切なく、私は一日中無駄に神経削っちまったと食堂でカレーを食べながら藤巻に愚痴った。


「というか、桃原。お前口悪いぞ?女なんだから直せよ」
「はあ?もう遅いし、いいんだよもう」
「ったく。少しは女としての自覚もてよ…」
「だいたいさあ、私が今更女の子らしくしたって気持ち悪いっしょ」
「あ、確かに言えてる」
「喧嘩売ってんのかてめェ」


私は藤巻の頭をぶん殴ろうとしたが藤巻は簡単に避けてしまった。私がちくしょう、と呟くと藤巻はため息をついた。またそんな暴言を、とか思っているんだろう。私は口にスプーンをくわえながら、「またいつか攻撃してくんのかなー」と呟いた。スプーンくわえながらだったから多分藤巻には変な風に聞こえたんじゃないかと思う。


「お前野田と喧嘩するようになってから暴力的になったよな」
「うるへー」







夜。寮の部屋のベッドの上で私は妙な気配を感じて目を覚ました。おかしい。何か殺気を感じる。私はそっと隣に置いておいた刀を手にとった。じっとしばらく警戒していると、ぎぃ、と私の部屋のドアが開く音がした。私は寝たふりをしながら入ってきた人物に神経を研ぎ澄まして警戒する。暗くてゃくわからないがもしかして天使か?その人物は私の真横まで来ると、ただならぬ殺気がしたかと思うと武器を振り下ろしてきた。私はほとんど反射で刀を手にとると振り下ろしてきた武器を刀で防御した。きんと金属音が聞こえて、私は飛び起きる力を利用して侵入者にシーツをかぶせた。侵入者の短い悲鳴。私はその声にはっとして、入り口付近の壁にある電気のスイッチを入れた。一瞬その眩しさに目がちかちかしたが、ちょっとすると慣れてきた。そこでようやく侵入者の姿を確認する。そして私は叫んだ。


「やっぱりお前か野田!」
「ぬ!?やっぱりだと!貴様あの暗闇の中俺だとわかるとは…成長したな。さすが俺が鍛えただけある」
「声聞けば嫌でもわかるわ!つーかお前なんでいんだよ!?どうやって女子寮入った!」
「ふっ…ここの警備も甘いものだ…夜とはいえ管理者が寝てるとはな…」
「根本的に夜の女子寮に入るお前がおかしいわ!」
「よし!桃原!」


野田は私を無視してじゃきんとハルバードを私に向けた。というか今気づいたのだが野田は寝間着姿だ。灰色のパジャマを着た野田はちょっとかわいいかった。私が気を取られていると、気を抜くな!と野田はハルバードの刃を私の顔にさらに近づけた。なんで寝る時に気を抜いてはいけないのだろうか。


「お前は十分に俺の修行を成し遂げた」
「ああ…で?」
「なので俺は約束通りお前に資格をやる」
「資格ぅ?」
「忘れたとは言わせないぞ。お前が俺とした約束を!」


そんなこと言われても忘れてしまった。なんだっけ。約束って。私が聞くと、野田は顔をしかめた。え、約束ってそんな大事なもんだったのか。


「思い出せ。あれだ、お前がまだ俺に鍛えられてきた時の。川の近くで」
「あ?あ〜…あれか。なんかあったっけ?」
「貴様!思い出せ」


野田はハルバードをさらに私の顔に近づけた。ハルバードの刃が鼻先をかすめて少しくすぐったい。私は必死に思い出す。確か、ゆりっぺが来て、それでゆりっぺが……「あ」
「思い出したか」


私の記憶が正しければ、いや正しくないのかもしれないが、あの時、確か。私はあの時の会話を思い出した。私たちは手合わせをしていて、それを見たゆりっぺが言った一言に野田が過剰に反応したのである。

“あんた達良くやるわね。息ぴったりだし、デキてるの?”
“なにっ?心外だぞゆりっぺ!こんな色気の欠片もない奴と俺がデキてるなど!”
“オイてめぇ今なんつった?色気ないとか目腐ってるんじゃね?眼科行って来いや”
“この世界に眼科はない!馬鹿か!”
“冗談通じないとかアホじゃん”
“貴様!”
“ちょっとやめなさいよ。この前体育館半壊させたの忘れたの?”
“だが…こいつは俺に見合う戦闘力と色気など持っていないぞゆりっぺ”
“待てや。戦闘力はともかく色気ないは余計だ”
“だから!野田くんも桃原さんもやめなさいって言ってるでしょ!”
“止めないでゆりっぺ!こいつとはいずれにせよ決着をつけなきゃいけないし!”
“俺の修行もまだ終わってないのに良くそんなことをぬけぬけと言えるな!色気なしが!せめて俺に認められたら言え!”
“てんめぇ言ったな!見てろよ絶対そのうち修行終わらせて認めさせてやっから!”
“よしいい度胸だな!では修行が終わったら貴様のすべてを認めて俺に見合う資格をやろう!”
“よっしゃ上等だあぁぁ!”



……まさか資格とは“私の全てを認めて野田に見合う資格を与える約束”ということだろうか。つまりそれは、もしかしたら、自惚れかもしれないが、まさか。私が一人でドキドキしてると、部屋の外から足音がした。私ははっとして、野田の服を掴んだ。


「野田っ!早く隠れて!誰か来たっぽい」
「はっ?なぜわざわざ隠れる?」
「女子寮は男子禁制なんだっつうの!」


私は野田をベッドの中に放り込むと私も無理矢理入り込んだ。(おっおい)(見つかるだろ馬鹿静かにしててっ)すると部屋のドアが開く音がして私たち二人は息を潜めた。多分巡回の先生だ。うるさかったから様子を見に来たのだろう。しばらく経つとドアを閉めて出て行った。出て行ってからしばらくして私はようやくシーツから顔を出した。


「あーびっくりした…」
「おい」
「え?な、」


いきなりだった。肩を掴まれ引っ張られたと思ったら、野田の顔がものすごく近かった。驚く暇もなく、私の唇にふにゃっとした触感。キスされたと自覚するのに時間はそんなにかからなかった。私があまりのことに固まっていると、そっと唇が離れていった。その瞬間、ぼんっと体中の体温が上昇した。顔が真っ赤なのが自分でもわかる。「な、ななななっ、なにして、のっ、野田っ」混乱で途切れ途切れにしか言葉が出て来ない。私の様子を見て野田がにやりとした。そして一言。


「俺の恋人になる資格を手にしたからは、幸せになれよ」



となりの恋人様




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