小説 | ナノ


流れ者、というのは色々苦労するものだ。例えばある町に行くために2日も寝ないで馬を走らせてきたというのに、着いた町の宿が定員オーバーだったり。



「本当に一つも空いてないの?」

「悪いわね。今日はどの部屋も満杯なんだ」



そんな…!私はさーっと血の気が引くのを感じた。2日も寝てないのに外で野宿なんて、そんなの耐えられない。私は何度も宿の女将さんに尋ねたのだが、部屋は満席。さらにこの町に宿屋はここだけだという。私はあまりの運の悪さにため息をついた。もう野宿しかないのだろうか。諦めて女将さんに何か言おうとしたら、隣にいた綺麗な女の人に声をかけられた。



「もしよかったら私と相部屋にしませんか?」

「えっ?」



びっくりして顔をあげるとさらにびっくりした。この女の人、エルフだ!とがった長い耳に誰もが目を止めるような美貌、間違いなくエルフだった。エルフを見るのは初めてじゃないが、こんなに近くで、さらに会話をしたことなど初めてだ。私がぽかんとしていると、「あの…?」不審に思ったのかエルフが首をかしげてこっちを見ていた。私は慌てて返事をする。



「はい、えっと、なんでしたっけ?」

「部屋がないのなら、私と相部屋をしませんか、という話です」

「いいんですか!?」



そうしてくれると結構、いやかなり助かる。私の問いにその心優しいエルフは、にこりと微笑んで頷いた。



「ええ。もちろん」

「ありがとうございます!助かります」



私が深く頭を下げると「いいんです、気にしないで下さい」と頭を上げるように言ってきた。



「私はイルリル・セレニアル。旅の者です。あなたは?」

「未来・桃原。私も旅の者です」

「未来…とは珍しい名前ですね。どこの国の方かしら?」

「遠い、東の方の小さな国です」

「そうですか。桃原さんはお一人で?」

「未来で良いですよ。敬語も結構です。あと、私はずっと一人旅です。セレニアルさんは?」

「私も敬語はいらないし、イルリルでいいわ。あと私は連れが三人いるの。後で紹介します」

「連れ…というのはエルフ?」

「いえ、全員人間の男です。名前は――」



イルリルが三人の男の名前を言う前に、宿の奥から男たちが大声を出しながら歩いてきた。



「だからさ、サンソン。城下町の水車が、ガタガタ音をたてて…」

「フチーっ!それ以上言ったら、殺す!」

「そんなに怒らなくてもいいだろ…っておっと!」



サンソンといわれた男が、フチという名前らしい少年を追いかけるという劇が始まった。すると食堂で暇を持て余していた客達がその劇を待っていたかのように見ている(サンソンとフチの二人の会話が面白いらしい)。するとそんな様子を見たイルリルが、口を開いた。



「紹介するわ、未来。あの走り回っている少年がフチ、その後ろがサンソン。あともう一人カールという人がいるのだけど……来たわ」



あの二人が連れだったのか。イルリルが向いた方を向くと、40歳か30歳ぐらいの優しそうなおじさんが宿の奥から出てくるところだった。この人がカール?私が聞くまでもなく、イルリルが口を開いた。



「カール、こちらは未来。部屋に空きがないというので私と相部屋になりました」

「はじめまして、未来・桃原です。カールさんでよろしいでしょうか?」

「ええ、私がカール・ヘルタントです。桃原嬢。お会い出来て光栄です」

「こちらこそ」



にこやかに笑うカールは実に優しげな印象を受けた。桃原嬢なんて初めて言われたし。すると、私とカールが会話している間にいつの間にかフチとサンソンがすぐ近くにいた(どうやら女将さんに怒られたらしい)。私を見てすぐにフチの方が聞いてきた。



「イルリル、この人は?」



イルリルが説明をする前に私が先に口を挟んだ。



「はじめまして。未来・桃原です。部屋に空きがなくて、イルリルと相部屋になった者です」

「あ、はじめまして。フチ・ネドバルです」

「サンソン・パーシバルといいます」



軽く挨拶を済ませると、カールに一緒に食事をどうですかと聞かれた。私はもちろんOKし、その夜はイルリル一行と共に食事をした。私はフチと共に調子に乗ってビールを飲みまくった結果、次の朝強烈な二日酔いの中目を覚ますことになった。起きた瞬間吐き気がこみ上げてきて、フチと私が真っ先に洗面台に駆け寄ったのは言うまでもない。



グランベールの祝福を!








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