小説 | ナノ


教科書やらなんやらがぎっしり詰まったずっしりと重たいバッグを肩にかけて、両手に花束や色紙やらなんやらを持ちながら、私は走っていた。今日は卒業式。三年間ずっと一緒にいてくれた仲間とのお別れの日だ。さっき音無ちゃんや壁山くん、少林くんや栗松くん達に色々もらってきて(みんな泣いていた)、秋ちゃんや夏美ちゃんと一緒に写真を撮ってきたところを抜け出してきた。秋ちゃんたちは残念そうにしていたけど、理由を聞くと笑顔で行ってらっしゃいと言ってくれた。だからは私は今、すごく急いでいた。ある人を探しているのだ。その人は私の大切な人で、違う高校に行っちゃうからちゃんとお別れをしておきたいのだ。私はきょろきょろと辺りを見回した。いなかったらシャレにならない。少し不安だったが、意外にもすぐにその人は見つかった。その人は後輩たちに囲まれていて、笑って話している。私はすぐに駆け寄った。



「守!」

「あ、未来!」



守は私を見て、にかっと笑った。三年間、ずっと変わらない笑顔。私は微笑むと、「卒業だね」と自分から口にした。



「早いよなあ、もう卒業だなんて!昨日入学した気分なのにな」

「あはは。確かにね」

「というかお前、荷物すごいな」

「え?ああ、これね。そういう守もすごいね」



守の手には数えきれないぐらいたくさんの花束や紙袋やらがあった。持ちきれなかったようで荷物が下に置いてあったりして、私よりもすごい。でも一番すごいのは豪炎寺や風丸だ。サッカー部の後輩以外にもたくさんの女の子から色々もらっているようだ。確実に私の倍以上ある。しかも未だに女の子たちに囲まれたり呼び出されたりしてるようだ。



「みんなたくさんもらってるね」

「まあ卒業だしな」

「卒業してもサッカー続けるんでしょ?」

「あったりまえだろ!サッカーは俺の宝だからな」

「そっか。……ねえ、守」

「ん?なんだ?」



私は花束をギュッと握った。なんでだろうか、涙が出てきた。卒業式にあんな泣いたくせに、今になってすごい泣けてきた。なんでだ。でもここで引き下がる訳にはいかない。私は泣きながら続けた。「あっ…あのね…ぐすっ、守に、言いたいことが…ぐすっ」

「お、おい未来?」



守が心配そうに私の顔を覗いてきた。私は涙が止まらなくて情けなくてぐずぐずで、見ないでの一言も言えない。すると近くにいた松野と半田と染岡たちが私の様子を見てちゃかしてきた。



「うわー、円堂が桃原泣かせてやがる」

「ちっ違う!違うって!」

「女泣かすなよー」



なんて言われて守はあたふたと慌てて否定していた。すると松野が隣にやって来て、「大丈夫?」なんて言ってくれた。いつもは意地悪な松野だけど、こういう時にはちゃんと優しくて、紳士っぽい。そしたらまた泣けてきて、私はぐいっと涙を拭った。するとなにやらずっと守と話していた半田と染岡が私に言ってきた。



「桃原、円堂が話があるって!」

「えっ?」



私が驚いている一方で守はうわー!とか言ってる。半田たちは頑張れ!とか応援の言葉を残して走り去っていった。松野も「じゃあ、頑張って」と言い残して半田たちのところへ行ってしまった。一体何をだ。取り残された私と守。私が口を開こうとしたら守が先に口を開いた。



「あのな、俺も話があるんだけど」

「うん、なに?」

「あ、あのな…」



守はもじもじと、困っている様子だった。こんな守は久しぶりに見たから、私は唖然としてしまった。後ろから染岡と半田と松野が「勇気だせ!」だの「男になれ!」だの「頑張れー!」だの言っている。話が読めなくて首をかしげていると、いきなり守が「あーっもうっ!まどろっこしい!」とか叫んだ。あまりにいきなりだったのでびっくりしていると、さらにびっくりすることが起きた。いきなり守が私の腕をぐいっとひいて、「えっ」私をギュッと抱きしめてきた。あまりの事に頭が回らない。なにこれどうしてこうなってんの守なにしてんのいや嬉しいけどあのなにこれ何やってんの守!



「まっ守!なにしてっ…!」

「お前が好きだ!」

「はっ?」



好き?好き?今好きっていった?もうなにがなんだかわからないが、その一言に心臓が跳び跳ねた。顔が紅潮するのがわかる。半田たちが「おおお!」「円堂がやった!」「みんな円堂がついにやったぞ!」「ついに…ついにやったか…!」と叫ぶ声。私は見られてるとわかって真っ赤になった。「まっ守」慌てて守から離れようと思ったが、守はギュッと私を強く抱きしめて離さない。嬉しいけどあの、今みんな見てるんだけど!



「未来は?」

「ええっ?」

「未来は俺が好き?」



私はさらに真っ赤になった。もう当たり前すぎてあきれるぐらいに。私は二年間ずっと、ずっと守が好きだったのだ。私はそっと、守の背中に手を回した。



「わっ、私もっ、好きだよ」



途端に守にぎゅうっと一段と強く痛いくらい抱きしめられた。だけどそんな痛みも今の私には喜べた。私もぎゅうっと強く強く守を抱きしめた。まわりがぎゃあぎゃあうるさいけど、聞こえないことにした。すると私の頬に涙がつうっと伝わって守の肩に落ちていった。私はそっと目をつぶると、守の耳元で大好きだよ、と呟いた。



せかいでいちばんきみがすき


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