小説 | ナノ
数学がようやく終わり、あと一時間ということでざわめく教室で私は半田と話しこんでいた。話の内容は"どこに遊びに行くか"。私と半田は去年の春から付き合っている。ちなみに今ははらはらと桜の蕾が咲き始める春の始めである。実はお察しの通り、明日は丁度私と半田の1年記念なのだ。せっかくだし何処かに行こう、となったのだが、私たちはまだ義務教育真っ最中の中学生だ。お金なんて親からもらうか何かしないと手に入らない。イコールお金がないのだ。だからあんまり高い有料のところは行けない。だから比較的安く行けるカラオケとか、最近撮ってないプリクラとか、まあ色々出たんだが、結局迷って、朝学活から半田と話しこんでいる訳である(ちなみに授業中も手紙回して話してた)。
「でさあ、カラオケ行って、その後プリクラ行くのは良いけど絶対時間余ると思うんだけど」
「そうか?」
「だって午前中から遊ぶんでしょ?絶対時間余るって」
「それはそん時決めれゃあ良いじゃねーか」
「駄目。絶対思い付かないし」「んー、じゃあ…」
さっきからこんな会話の繰り返しだ。いい加減飽きてきた。私ははっとため息をつくと、隣で机の下で携帯いじってる松野に向かって「松野ー、なんかいい考えない?」なんて聞いてみる。ちなみに松野にこの質問をするのは三回目だ。松野は一回目以降と同じく「ない」と一言で答えた。シンプルでわかりやすい答えだがナンセンスだと私は思う。良いアイディアが思いつかない松野なんて帽子吹っ飛べばいいのに。そんで帽子が風にさらわれてアーッてなればいいのに。
「桃原今なんか言った?」
「ううん何も」
「なら良いけど」
松野よ、そう言いながら何故私を疑惑の目で見る。私もなにか感情を込めて松野を見ようと思い、上目遣いに松野を見上げて見た。効いたか松野、乙女ビームだ!「なにガン飛ばしてんの。キモいよ」おいいいいいい!なんで乙女心がぎっしり詰まった上目遣いがキモいんだよ!
「あ、そうだ」
半田がぽつんと一言。私は松野にしていた上目遣いをやめて半田の方を見た。「なんで半田にはガン飛ばさないの?」「ガンじゃねーよ!」半田は私たちの会話をまるで空気のように無視して続けた。
「俺ん家いくか」
「えっ?」
俺ん家って半田の家?そういえば考えてみれば半田と付き合って1年経つというのに未だ半田の家に行ったことがない。確か付き合い始めは行きたいとか言ってたけど、半田が駄目とかいうから結局行けずに1年が経ってしまっていたのか。私は笑顔で半田の机に飛び付いた。
「行く!行きたい!」
「えっ?桃原って付き合って1年経つくせに半田の家も行ってないの?」
「悪かったですねえ行ってなくて!私だって行きたかったけど半田が…」
ねえ?と半田に同意を求めたが「そうだったっけ?」とかほざきやがった。寒かったけど半田の家に入れなくて凍え死にそうになったの誰だと思っていやがるんだ。私はとりあえずニヤニヤしてる松野の足を蹴りあげておいた(松野は短い悲鳴をあげていた)。
「半田の家、見たことあったけど一軒家だよね?」
「ああ。あ、ちなみに俺の部屋二階な」
「へえ。ちょっと見てみるの楽しみだなあ」
ベットの下とかにエロ本落ちてたら面白いな。私が希望に胸をときめかせていると半田に「なに考えてるかは知らないけど多分その考えはないぞ」なんて言われた。半田の部屋ってエロ本ないのか。私が半田とイチャイチャタイムを(イチャイチャしてないけど気分でどうにかなる)過ごしていると松野のあんぽんたんが口をはさんできた(さっき私が蹴ったところをさすっている。結構痛かったらしい)。
「なに?私と半田のラブラブタイムを邪魔しないでよ」
「待て。何処がラブラブだ」
「いやもう全体的にピンク色のオーラが出てる気がしない?そのうちハートが飛んでいきそうな気も…」
「お前だけな」
「ちょっとは僕の話聞いてくれない?」
いつもは呆れて逃げるか無視する松野が諦めずに会話に入ってきたので私はなにかあるなと直感的に思った。「どした?」私が聞くと、松野が手を出してと言ってきたので私は素直に手を出した。松野は私の手のひらに小さなお菓子の袋みたいなのをぽんと落とした。私はすぐに手に持つと早速弄り始めた。
「なにこれ?開けていいの?」
「開けていいよ。あげる」
そういうと松野は教室を出て行ってしまった。なんだったのだろうか。私は松野の後ろ姿を見送ると、残された手の上の袋を破いた。びり、と袋が裂ける音がした。半田もなんだ?って顔で中から出てくるものを興味津々で覗いてくる。私は中身を取り出した。中から出てきたのは―――――
「まっ…松野おおおおおおおおおおおおおおお!」
私は中身を見た瞬間松野を追いかけた。半田の疑問の声が聞こえたが、私は無視した。半田も机の上に置いた松野からの要らない贈り物を見ればわかるだろう。松野の野郎、なんでコンドームなんて持ってんだよ!
砂糖菓子魔王の策略