小説 | ナノ


不動って怖いよね。みんなそう言うが、あいつは不器用ってだけで怖いわけでも、ましてや悪いやつなんかじゃない。不器用なだけであって。…と私は思う。だけどそれは今の私の意見であって、前は私もみんなと同じく不動を怖がっていた。ていうか、悪いやつだと思っていた。だって源田と佐久間を巻き込んでひどいことしたのも真実だし、そこらへんはいくら不動が不器用だからって許せた話じゃない。だけど不動にも不動らしい不器用な優しさがあって、私はそれを知っているから不動をいい人だと思えるのだ。だから私は今不動と仲が良いし、良く話すようになった。さらには不動の紹介で日本代表のマネージャーになった。それぐらい私と不動の仲はぐんっと深まったのだ。そして良く晴れた快晴の日、私は同じくマネージャーである秋ちゃんや音無ちゃんと話していた。



「今日もみんな頑張ってるね」

「日本代表に選ばれましたからね。気合い入ってるんですよ!」

「でもすごいよね、日本代表なんて。…あ、不動今こけた」

「えっ本当?私わかんなかったよ。未来ちゃん目いいね」



秋ちゃんがドリンクを作りながら言った。目が良いんじゃなくてたまたま不動が目にはいっただけだけど。私もドリンクを一緒に作りながらそう言うと、秋ちゃんと音無ちゃんは二人でくすくすと笑った。私がぽかんとしていると秋ちゃんが笑って言った。



「未来ちゃんって、不動くんと付き合ってるんだっけ?」

「へっ?」



付き合ってる?私と不動が?確かに仲が良いのは事実だが、付き合ってるまではいかない。「ちっ違うよ!」私が必死にぶんぶんと首を横に振ると、今度は音無ちゃんが言った。



「でも少なくとも不動くんは未来先輩のこと好きですよ」

「はっ?」

「不動くん、未来先輩のこと良く見てますもん」



不動が私を?それこそあり得ない。私があまりのことに唖然としていると、ちょうどピィーっと休憩の合図の笛が鳴った。すると待ってましたと言わんばかりにみんながわらわらとドリンクを受け取りに来た。私がみんなに忙しく渡していると、秋ちゃんが肘で私をつついて囁いた。



「ほら、今も見てる」



見てみなよ、と囁かれ、どうせ後から何見てんだよとか言われるんだろうな、なんて考えてながらそっと(半分おそるおそる)不動の方を見た。すると肩にタオルをかけて、手にドリンクを持った不動とばっちりと目があった。不動は少し慌てたような顔をした後に背を向けてドリンクを飲み始めた。唖然としている私に、今度は音無ちゃんが囁くように言ってきた。

「ほら、目があったでしょう?」



少年少女の走り出した恋心



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