小説 | ナノ
ばたばたばた、と某アニメのバタ子さん並に誰かが二階で騒いでいる。そのたびにテーブルの上の紅茶が揺れた。危ないなぁと俺、グランはひとり呟いて紅茶を飲みほした。二階で走り回っているのはたぶん、いや十中八九バーンだ。真下が俺の部屋と知っていて二階を走り回るなんて迷惑なことをするのは彼しかいないし、二階にはバーンの部屋がある。ところが音を聞いていると、走っているのが一人ではないことに気づいた。足音は二人ぶん聞こえた。どうやら走り回っているのは二人のようだ。ひとりはバーンとして、もうひとりは誰だろう。考えているとちょうど良いことに叫び声が聞こえた。
「てめぇ!待ちやがれ!」
「待たねえよ!」
「てめぇ犯すからな!」
「やれるもんならやってみろバーカ!」
もうひとりの犯人がわかった。未来だ。彼女はあり得ないことにバーンの恋人である。でも幼なじみから恋人に昇格したのはつい最近のことで、見ても前とあまり変わらないように見えた。今だってそうだ。ようやく恋人になったというのに、彼らはよく喧嘩をしている。理由は様々だが、今日はいったいなんだろうか。すると俺の部屋のドアがバン!と勢い良く開いた。見るとそこには今まさに考えていた未来がいた。走り回っていたからか、ぜぇぜぇと息切れをしている。彼女は俺を見ると、辛そうに言った。
「かっ、かくまってくれ!」
すると未来は素早くカーテンの陰に隠れてしまった。あまりの早さにぽかんとしていると、再びバン!と勢い良くドアが開いた。急いでそっちに目を向けると、今度はぜぇぜぇと息切れしたバーンがいた。なんかデジャビュだなあ、なんて思っていると、バーンが俺を見るなり大声で叫んだ。
「未来どこだ!ここに来たろ!」
「来てないよ」
俺がすんなり答えるとバーンは嘘だ嘘だとか叫びまくって部屋中をあさって未来を捜し始めた。捜すのはいいけどちらかさないで欲しいとなげかけると、うるせえとどやされてしまった。人の部屋を勝手にあさってるくせになんて態度だろうか。まあ別に今に始まった訳じゃないので黙って紅茶をすすることにした。紅茶をすすっていると、どこからか熱い視線を感じた。ちらりと視線の源の方を見ると、未来が俺をぎんぎんに睨みつけていた。なんとかしなさいよ!とか、かくまえよ!とか、そういうのを訴える視線だ。そんな視線を無視して(このまま隠れてバーンに見つかった方が面白いだろうから)バーンの方に目をやると、「あ」思わず声がもれた。
「バーン、そのクローゼット開けない方が…」
「あ?なんだよ」
時すでに遅し。バーンはクローゼットをがっつり開けていてしまった。俺はしーらない、と聞こえないぐらい小さい声で呟いた。バーンはようやくクローゼットの中に入っている物に気づいたようだ。酸欠状態の金魚のようにパクパクと口を開け、顔を真っ赤にして非常に慌てている。
「な、な、な…!?」
「だからバーンは見ない方が良かったのに」
「こっ……」
バーンは顔を真っ赤にさせて「こっこんなもん置いておくんじゃねぇよバーカ!」と叫んで逃げて行った。バカはどっちだ。バーンが逃げて数秒後、未来がおそるおそるカーテンの陰から出てきた。
「グラン、なにしたの?」
「別になにも。バーンが勝手に逃げて行ったんだよ」
「じゃああいつ何見て逃げてったの?」
そう聞かれて、俺は座っていたソファーの隙間からある雑誌を取り出した。「これだよ」その雑誌を未来に渡すと、彼女はその雑誌の表紙を見た瞬間、大きな目をさらに大きくして驚いた。それゃそうだろう。未来に渡したのは成人向け雑誌、つまりエロ本だ。バーンはこれを見て逃げて行ったのだ。あのクローゼットにはこの雑誌が何冊も置いてあるから。こういうのに慣れてないバーンはダッシュで逃げ出す訳で。
「呆れた。こんなの持ってんの?」
「持ってて悪い?」
「別に悪くはないけど。それよりグラン、助けるとかしろよ」
「なんとかなったじゃないか」
「でもグラン、」
反論しようと開いた口が開けたままで固まった。未来はドアの方をくぎ付けになっている。そっちを見ると、開いたままのドアの前にバーンが立っていた。ばっちり見つかったな。唖然としていたら、バーンが無言でずんずんとやってきて、未来も無言で逃げ出した。二人ともだんだん早歩きから走るようになってきて、ばたばたと足音が立つようになって来た。さっきの二階の足音はこれか。すると俺の部屋を無言で走り回っていた二人が走りながら会話を始めた。
「いい加減にしろ犯すぞてめえ」
「できないくせに」
なんて言いながら二人は走り回るのを止めていた。それどころか相手の悪口言いながら近づいていっている。意味がわからない。なんて思っていたらさらに意味のわからないことにバーンが未来に抱きついた。
「バーンって人を馬鹿にするしか脳がないよね」
「お前胸ないよな」
「殴るよ」
「犯すぞ」
「別にいいけど離さないでよ」
「別にいいけど離れんなよ」
「ああ、大丈夫離さないから」
「おう、俺も離さないから安心しろ」
「……君らさあ、ここが俺の部屋って忘れてない?」
喧嘩しながらイチャイチャ