小説 | ナノ


私は生まれながらに霊感を持っていた。別に特別霊感が強い家系という訳じゃないのに。まったく迷惑な話だ。昔から変なものにとりつかれるわついてこられるわで毎日疲労がたまる。しかも歳をとるうちにだんだんと霊感が強まってきてるようで、人についている守護霊などのものまで見えるようになった。そこらへんに浮遊している霊ならもう慣れたから無視できるが守護霊や人にとりつく霊は気になる。一般人に紛れてたまにわからなくなるし、それで前にちょっとした誤解があったりなどかなり迷惑だ。ともかく私はそれ関係のことで悩んでいた。ある日、私は学校である男子と廊下を通りすぎた。そいつを見た瞬間、私は思わずぎょっとしてしまった。彼の隣、まるでそこにいることが当たり前のように和服を着た男がいたのだ。文化祭でもない日に学校にこんな平安時代みたいの貴族みたいな格好したコスプレ野郎がいる訳がない。完全に霊だ。それもその男子、進藤ヒカルにとりついているようだ。しかもよく見るとその和装の男は進藤にちょこちょこと話しかけていて、それに対して進藤もちょこちょこと小声で返事をしていた。こんな風に霊と自然に会話している人を初めて見た。私でもあんな自然に会話したことないのに。私があまりのことに唖然と突っ立っていると友達に「なにしてるの」と言われた。普段の生活で霊とは関わらないと決めていたのにやってしまった。それから私は進藤ヒカルについて色んな人に聞きこんで、彼が囲碁部だということを知った。放課後、私はまっすぐ囲碁部の部室に向かった。がらりと勢いよく部室のドアを開けるとそこには進藤ヒカルと和装の霊しかいなくて、二人とも突然の訪問者にぽかんとしていた。すたすたと進藤ヒカルの前に立つと私は二人に向かって言い放つように言った。



「霊感あんの?」

「へっ?」

「進藤は霊感あんの?」

「な、ないと思うけど…」

「じゃあなんでその人と話せるの」



私がびしっと思いきり和装男を指差すと進藤はぎょっとした顔をした。和装男の方は驚きつつ和服の裾で口元を隠していた。どうも本当に貴族らしい。どこの時代か知らないけど。



「みっ見えんの!?」

「私としてはむしろ見えてるあんたがすごいけどね。本当に霊感ないの?」

「ヒカルヒカルっ!すごい!この人私のこと見えてますよ!」



和装男はぐいぐいと進藤の服を引っ張って子供みたいに私を指差した。ずいぶん陽気な霊だな。私は和装男に近づくとじろじろとなめ回すように見た。「なっ何ですか」和装男が怯えたように進藤の後ろに隠れたがその時はもう観察して判断はくだしていた。守護霊ではないけど、どうやら害のない霊のようだ。



「ご先祖?」

「違います!私は藤原佐為、ヒカルのご先祖じゃありません」

「違うんだ?じゃあただの憑依霊?それなのに見えるとか珍しいね」

「じゃあ桃原って霊感あるのか?」

「…まあ、うん」

「へえ。だから佐為も見えるんだ」

「人に言わないでね。変だと思われるから」

「あ、うんわかった」

「ねぇねぇ、名前はなんていうんです?」

「桃原未来。あんたは藤原佐為?だっけ」

「平安時代の貴族なんだってさ」

「ふうん。…ねえ、進藤は本当に霊感ないの?」

「うん。ないよ。なんで佐為が見えるのかはわからないけど」



少し残念だった。同志かと思ってたのに。しょうがない、帰ろうかなと思ってたら佐為とかいう奴に声をかけられた。



「未来は碁を打たないんですか?」

「……はあ?」




いびつなハートに呼ばれてる



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