小説 | ナノ


大きくて深い闇の色をした目が俺を見据えていた。光を全て飲み込む闇のような、全てを焼き尽くす漆黒の炎のような、深い深い色だった。俺が優しくそっと未来の肩を掴むと、未来の瞳はゆらりと揺らいだ。それでも俺が離さないでいると、未来がゆっくりと口を開いた。


「ラファエロ、私、一緒にいたい」

「だけど、お前は」

「どんなことがあっても構わない。ラファエロと一緒にいたい」

「……それでいいのかよ」


吐き捨てるように俺は言った。どんなに未来が俺のことを好きでも、俺がどんなに未来を好きでも、俺は最優先に未来の幸せを考えている。例えそれが俺にとっての不幸でも、俺はそれを願うつもりだ。俺はニューヨークで出会ったこのジャパニーズの少女にとっての幸せはきっと、普通の少女として生きることだと思った。だから今日、さよならを言うつもりだった。だけど未来は、それに首を振った。それは私の幸せじゃない、と。



「それでいいのかよ。お前は、未来は、それで幸せなのかよ!」



どんなに辛くたって我慢するつもりだった。どんなに切なくて辛くたって、未来が幸せならそれでいい。そのつもりだった。なのに未来は俺の幸せが自分の幸せに繋がると、そう言った。正直信じられなかった。そんなこと、夢にも思ってなかったから。きっと未来は俺の幸せを願って言ったんだ。未来が言ってるのは自分の幸せじゃない。俺の幸せだ。そんなことを願うな。俺が願って欲しいのは、未来自身の幸せだ。



「幸せだよ」



未来はぽつんと呟くように言った。瞬間、空気がしんと静まりかえってしまった気がした。思わず未来の肩を掴む手に力が入った。「い、たい」「あ、わ、悪い」慌てて手の力を抜いた。未来はそれでも微笑むと、幸せだよ、と今一度言った。



「ラファエロの傍にいるだけで、私は幸せだから」

「………嘘はないな」

「うん」

「絶対だな」「うん」

「幸せになれよ」

「うん」

「…幸せにしてやるから」

「…うん」



じわりと視界が揺らいだ気がした。目に膜が張った、そんな感じだ。何故か俺は泣きそうだった。だけど俺は短気で、意地っ張りな性格をしていた。泣ける訳がなかった。ところが未来の方はぼろぼろと流れ出る涙を拭わずに泣いていた。俺はほとんど勘でそれが嬉し涙だと感じた。頬をつたう涙を拭ってやると、ありがとう、と途切れ途切れの言葉が返ってきた。俺は思わず笑った。馬鹿、それはこっちのセリフだ。



それは紛れもない運命なのだ






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いいよねラファエロ。四人の中で一番好きだよラファエロ。なんたって彼は俺様だもの



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