小説 | ナノ
「いいのかなぁ」
座って私に後ろから抱きつきながら、トランクスは心配そうに言った。たぶん、私たちの関係についてだ。最近トランクスは心配ばっかりしている。その心配とは、トランクスのお父さんであるベジータさんに私たちの関係を話していないということだ。話せばいいのに、彼は何故か話したがらない。それにしてもベジータさんもいる家でこんな風に抱きついて来てるくせに、今更何を言い出すのだろうか。私ははぁ、とため息をついてからテレビのリモコンをいじりながら答えた。
「話しちゃえばいいのに」
「駄目だ。話せない」
「…ねぇ、前から思ってたんだけど何で駄目なわけ?」
「…笑うなよ」
「笑わないよ」
「……怖いんだ」
「怖い?」
何が怖いのだろうか。もしかしてベジータさん?トランクスはハーフではあるもののサイヤ人の血を引いていてそこそこに強い。だけどベジータさんにだけは敵わないから、怖いといったらベジータさんしか思い付かない。悟空さんも強いのだけれど、彼に限って"怖い"なんてことはないだろうし。
「何が?」
「…父さんが」
「ベジータさんが?」
どんぴしゃだと思ったら、トランクスは首を横に振った。怖いの、はベジータさんじゃないと。じゃあ何が怖いのだろう。するとトランクスは重々しく口を開いた。
「違う。父さんがじゃなくて、父さんに認められなかったらどうしようって、それが怖いんだ」
私が今まで見たなかで、一番必死なトランクスだった。私を強く抱きしめて、必死に言うトランクスはなんだか見ていたらすごく切なくなって、胸がギュッと掴まれるような感じがした。私はたまらずトランクスの首に手を回して抱きついた。
「、未来っ?」
「大丈夫だよ、認めてくれるよ。大丈夫だよ」
私は必死に言った。今、トランクスがどうしようもなく愛しかった。大丈夫だよ、絶対認めてくれる。そんな風に言ってトランクスを安心させたかった。ぎゅう、と強くトランクスを抱きしめるとトランクスも強く私を抱き締めた。なんか久しぶりにこんな確かな幸せを感じた気がする。私達が強く抱きしめ合っていると、急にトランクスの腕の力が弱まった。私を抱きしめている手はそのままに、力だけが抜かれたのだ。どうしたのかと思ってトランクスを見上げると、トランクスの顔が驚いた顔のまま固まっていた。やばい、とかしまった、とかその類いの顔だ。見れば、トランクスの目線は私の後ろに向いていた。私が振り向くと、そこにはトランクス以上に驚いた顔のまま呆然と突っ立っているベジータさんがいた。すると私の耳元でやばい、とトランクスが呟く声が聞こえた。確かにこれはやばい。なんたって、なんたってなんたって、ベジータさんに思いっきり抱き合っている所を見られたんだから。
果たしてこれはラブアフェアかトラジコメディーか