小説 | ナノ


「そういえば桃原って風丸のこと好きなんだろ?」



放課後、私が教室で日誌を書いている時に忘れ物を取りに来た染岡に聞かれて、私の思考は一瞬にしてストップしてしまった。なんで染岡がその事を知っているのだろう。私は風丸のことが好きで、その事を知っているのは私の知る限り三人だ。鬼道、それと一ノ瀬くん。鋭い鬼道には一週間前に気づかれ、一ノ瀬くんは相談に乗ってくれるから私から打ち明けた。最後の一人は秋。秋は一ノ瀬くんと同じく相談に乗ってくれるし、仲の良い女の子だから打ち明けた。とまあ、私の知る限り私の気持ちを知っているのはこの三人しか知らない訳だが、なんで染岡が知っているのだろうか。一体どこからもれたのか。三人の中でもらしそうなのは…いた。鬼道だ。鬼道しかいない。一ノ瀬くんはああいう性格をしていてなんだか軽そうに見えるけどなんだかんだ女の子の約束は守るタイプの人間だし、言う事は多分ないと思う。秋ももちろんあり得ない。秋はそんな子じゃないから。だが問題は鬼道だ。奴は私のことなんかどうでもいいみたいな顔をしてるし(実際そうなんだけど!)、私の好きな人をバラすぐらいのこと、平気でやりそうだ。絶対鬼道だ。鬼道しかあり得ない。あんのやろー頭丸刈りにしてやる!



「……おい桃原、何考えてるの知らねえけど俺は自分で気づいたんだぜ」

「え?そうなの?」



私が聞き返すと染岡は「お前何しようとしたんだ」と聞いてきたので「ううん何でもないよ」と首を横に振っておいた。危ない危ない。鬼道が丸刈りになるところだった。



「ていうか…何でわかったの」

「見てりゃわかる」



見てりゃわかるって…私そこまでわかりやすいか?行動にはそんなに出してないし、見た目じゃわかんないと思ってたけど鬼道にはバレたし、やっぱわかるんかな。わかりやすいのだろうか。



「私ってわかりやすい?」

「わかりやすいっつうか…わかりやすいな」

「あ、やっぱりか。どのへん?」

「ずっと見てるだろ。風丸のこと」

「は?そんな事してないんだけど」



だって風丸見てるなんてそんなのいつ見てるんだ?私はマネージャーじゃないからサッカーしてる風丸に見惚れるなんてそんなないだろう。見惚れるなんて事は教室で横顔見てる時と、後は教室にいる時たまにサッカーしてるから見てる時…ってあれ?けっこう見てるんじゃん自分。



「思い当たる節でもあったか」

「…あった」

「ほらな。そんだけ見てれば風丸ももう気づいてんじゃないか?」



どどどどうしよう。本当にバレてたらどうしよう。もしそうなら顔あわせられないし、話すなんて到底無理だ。ど、どどどどどどどうしよう。あまりのショックに鼻がつーんとして目が潤んできた。うわ、どうしよう。思わず顔を伏せて唇を咬んだ。出てきた涙がもう溢れでそうだ。私がにじみ出てくる涙と戦っていると、染岡が私の様子を見ておかしいと思ったのか、「お、おい」と慌てた様子で私の顔を覗きこんできた。見られたくなくて見ないでよ、と言おうとしたらぽろりと涙が一粒、床に落ちた。私が泣いていると確信した染岡が大慌てで「な、泣くなって」と手が不自然におろおろと曖昧に宙をさ迷っている。ごめん染岡。泣き虫で。しばらく泣き止みそうにないや。しまいには嗚咽まで出てきて、もう端から見たら染岡が私を泣かせてるみたいに見えるんだろう。染岡はどう対処していいのかわからずに相変わらずおろおろとしている。もうこの場の誰にも何もできない空気になってしまった時、ふと少年のテノール・トーンが教室に響いた。



「なにしてるんだ?」



不思議な事にぴたりと私の嗚咽はやんだ。すん、と鼻をすすって声のした方を見ると、ドアのすぐ近くに風丸がいた。し、しかも怒ってるご様子で……?ちらりと染岡の方を見ると彼はばつの悪そうな顔をしていた。当たり前か。風丸から見たら泣かせてるみたいに見えるんだから。風丸は私たちを見ると、眉をひそめて染岡に言った。



「なに泣かせてんだよ」

「なっ泣かせてねぇよ!」



慌てて言う染岡。私も何か言おうと口を開こうとしたら、風丸がずんずんと近寄ってきたから何も言えなくなってしまった。



「で?未来は染岡に泣かされたのか?」

「だから泣かせてねぇよ!」

「ちっ違うよ」



私が必死に否定すると風丸はふぅんと鼻をならした。信じてもらえたかな。私がもう一度否定の言葉を口にする前に、風丸の方から口を開いた。



「泣かせてないならいいけど、もし未来を泣かせたら俺本気で怒るから」



自惚れてもいいですか




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
泣き虫ヒロインスキー




- ナノ -