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「あ、勇者」



私が名前を呼ぶと、勇者ニケは綺麗な金髪を揺らしてくるりと振り向いた。



「俺はニケだっつうの」

「でも勇者じゃん」



魔王倒したし。私がそう付け足すと、勇者ニケは俺はもう勇者を引退したんだよ、と呆れたように呟いた。嘘だ。勇者に引退もクソもあるか。



「で?何の用だよ」

「あ、そうだ。ククリちゃんいる?」

「家ん中にいるぜ」

「わかった。サンキュー」

「本当お前ら仲良いよなぁ。毎日毎日」



言われて私はぴたりと足を止めた。毎日毎日。そうだ。私はククリちゃんが大好きで、毎日会いに来てるのだ。……嘘。本当はそれは口実で、本当は勇者に、ニケに会いに来てるのだ。私はニケが好き。だけどニケはククリちゃんが好きでククリちゃんもニケが好きで、両想いなんだ。私の付け入るスキなんてない。告白なんてできない。ククリちゃんにも悪いから。だから私はこの気持ちが冷めてなくなるまで、ずっと待ってることにしたんだ。ごまかさなきゃ。私はニケの方を向いてにやりと笑みを浮かべると、

「…妬いた?」

「んな訳あるか!」



あはは。私は笑ってククリちゃんのいる家の中に向かった。今私は笑ったけど、笑ったのは表面上だけだ。笑える訳がない。



「ククリと仲良くしてやってくれよ!」



後ろの方からニケの声。ああ仲良くするよ。だってククリちゃんは好きだし、仲良くしないと君に会えないんだから。



心の奥に引っ込めたのは君への想い


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