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私は生まれついての光の者だった。しかも光魔法の名家中の名家、光魔法の王族の生まれ。私は皇女だったのだ。魔学に関わりの深い国に生まれ、物心ついてからは父母と共に光魔法を学びに旅をしていた。数年前には光のパーティを組んで冒険をしていた。そんな光の者としての人生を歩んできた私はそれなりの誇りと、自信を持っていた。
だけれども今になって、私は光の者に生まれた事を生まれて初めて後悔した。



「…レイド」



ぽつんと彼の名前を呟いた。レイドは悲しみに顔を歪めている。きっと私も同じような顔をしているのだろう。私は泣くまいと唇を噛み締めているから。
レイドは私の想い人だった。ずっと前に宿で会って、それから顔見知りになって、それからまた会って、だんだんと仲良くなって、私はレイドを想うようになったんだ。そしたらレイドも私を想ってくれて、私たちは恋人になった。
その時、まだ私は知らなかった。レイドが、レイドが闇の者だなんて。
今さっき、私は光の者だと、光の皇女だと話した。話した瞬間、レイドは大きく目を見開いた。そして言ったんだ。「俺は、魔族なんだ」魔族。闇魔法行使時の悪魔からの誘惑や、失敗の繰り返し過ぎにより邪心に染まり魔物になってしまった者の成れの果てか、魔界で生まれたそれらの者達の子孫。レイドはその魔族だと言う。しかも魔族の中でも上級の、魔界の王子だと。私は光の皇女で、闇の者とは深く関われない。魔族なんて言語道断だ。だから魔界の王子であるレイドとは本当は、関わっちゃいけなかったのに。
でももう遅い。だって私はレイドを愛してしまったから。



「未来、俺はお前が光の皇女だって構わない。どんなお前でも俺は好きだ」

「っ、もう遅いよっ…!」



やめて。そんな言葉で私に期待をさせないで。
昔に聞いたことがある。光の者と闇の者は一緒にいてはいけない。一緒にいると必ず反発しあってしまうから。だから光のパーティと闇のパーティが存在しているのだと。だから魔界の王子と光の皇女なんて、許される訳がないんだ。



「…俺は昔に、失恋した」

「…は」



いきなり何を言うのか、レイドは昔の失恋談を語り始めた。昔、恋した女の子は闇の者で、その子には好きな人がいたらしい。何で今このタイミングでレイドの失恋談を聞かないといけないんだろう。



「そいつの好きな人はな、光の者だったんだ」

「光、の…?」

「闇の者と光の者なのにパーティを組んで共に旅をしていたんだ。反発もせずに、ずっとな」

「なにそれ……」

「不思議だろう。闇と光が反発もせずに共にいるとは。だからきっと、俺が王子だろうが未来が皇女だろうが、愛さえあればきっと、結ばれるんだ」

「愛、さえあれば…」



愛さえあれば私たちは結ばれるのだろうか。闇の王子と光の皇女でも。



「俺は未来が好きだ。未来は……未来は俺が好きか?」



答えは決まっていた。こくりと私が頷くと、レイドは安心したように微笑んだ。良かった、と。そんなの私も一緒だ。嬉しくて微笑んだら、何故だろう。涙が出てきて頬を伝った。レイドは微笑んだまま私の涙を拭うと、唇に小さなキスをした。




幸せの定義とか愛の理論とかそんな難しいものより、ただ体温を感じたい



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