小説 | ナノ


やばい。ほんとにやばい。今私の目の前にいる少年に私は非常に焦っていた。
何故こんなに焦っているのかというと、私があることをしているところをこの少年に見られたからである。それは他人に見られたら非常に困るもので、見られたら死があると思えと親に言われたぐらいのものだ。
私の家系は室町時代から続く"祓い屋"で、何を祓うかというと、まぁ幽霊とか呪いとかその類いのものだ。端から聞くとただの妄想のオカルト話だが、迷惑なことに現代でも幽霊や呪いは存在するのだ。親が言うにはそれには人の思いとやらが関係しているらしいが私としてはどうでもいい話である。それでその祓いをするにはちょっとした儀式をしなければならないのだが、それはいつも真夜中にやる。そして今日も真夜中にしていたのだが、今日、狙っていた幽霊が外に出てしまい、追いかけて外で儀式をやるはめになり、私が丁度儀式を終え、ほっとして家に帰ろうと振り向くと、少し離れたところにいた少年とばっちりと目があってしまったのだ。
非常に、非常にまずい。今まで人に見られたことなんてなかったから、さらにまずい。しかも追い討ちをかけるように私は儀式服のフル装備だ。血のように真っ赤な着物に紺色の、じゃらじゃらとした数珠のような首飾りを何重にもして首にかけている。手首や足首やらに付けた小さな儀式用の飾物を数えるとキリがない。そんな私はコスプレしていますと主張しているような格好の私を見たら誰しも変に思うだろう。
さらにさらに、この目の前にいる少年は私の知り合いだったりする。彼は墨村良守、名前は知っているが、それ以外は全く知らない。その墨村は私を幽霊でも見たような顔で見ている。ははは、もうダメだ私死んだ。
ところが彼が次に発した言葉は私の想像を超える言葉だった。




「桃原、お前もしかして幽霊見えんの?」




共通の話題をもつ友達ができる三分前の話。




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