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桃原未来。彼女はたくさんの仮面を持った女だった。
まるで彼女は道化師のようだった。グラウンドに立つ彼女は真剣で、鋭くて鋼のような眼差しをしている。そのすらりとした足で蹴るボールは全く無駄がなくて、綺麗な軌跡を描いてゴールに吸い込まれるようにシュートされる。だけど教室にいる彼女は笑顔で明るくて感情的で、あの冷静な鋼鉄の眼差しなんて考えられないほどだ。そう、まるで道化師のように。
まるで彼女は天使のようだった。彼女はマネージャー兼選手でドリンクを作ったりもしていて、俺にドリンクを渡してくれた時の彼女はまるで天使のように綺麗で可愛くて、背中に純白の羽が生えていてもおかしくないと思った。まるで天使のように。
彼女はまるで悪魔だった。試合中と練習中は相手に容赦などは一切しない。その鋼の眼差しは相手を傷つけそうなほど冷たく、鋭かった。それに悪魔のように知恵が働いた。天才ゲームメイカーと呼ばれている鬼道と同じくらい知恵が働いた。頭が良くて、誰も考えないような大胆かつ打算的な考え方をしていた。まるで悪魔のように。



「源田、一緒に帰らない?」



部活が終わって、丁度桃原と会ったので一緒に帰ることにした。隣を歩く桃原。周りには俺達以外に人はいなくて二人きりで、まるで恋人みたいだと思った。桃原にはきっと、俺を惚れさせる仮面も持ってるんだ。いや違う。きっと彼女の仮面の全てが俺を惚れさせているんだ。



「あのね源田、私、源田が好き」



彼女の仮面がまた増えるようだ。ああ違う。仮面じゃない。彼女の顔に、彼女の本質に、俺の恋人という文字が刻まれるんだ。


まるで彼女は道化師で、悪魔で、天使で、俺の女神みたいな女だった。






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