小説 | ナノ
鈍い。鈍い鈍い鈍すぎる。なんかもう円堂級に鈍いんじゃないかってぐらい鈍すぎる。豪炎寺がこんな鈍感だったとはまったく思わなかった。予想外だ。なんであんな鈍いの、と風丸に聞いても、しょうがないだろと苦笑いするだけでひとつもアドバイスをくれなかった。ひっでぇ。今度その髪の毛むしってやるからな。
「大体、鈍いって何が鈍いんだ」
「全部。だって私が顔近づけても鈍いからまったくそういう雰囲気にならないし空気読めないしイチャイチャできないしエトセトラ」
「お前からすればいいんじゃないのか」
「んなことできたら苦労しないわボケェェェ」
そんな恥ずかしいことできるか!やっぱり親しいからって風丸に相談したのが悪いのかもしれない。人選ミスだ、ちくしょう。一ノ瀬あたりに相談すれば良かった。すると風丸が「豪炎寺!」本人の名前を呼びやがった。うわあああなにしてんねんロン毛ポニー!うわっ豪炎寺気づいた!こっち来た!
「なんだ?」
「未来がな、鈍すぎるからなんとかしろって言っ」
「うわあああバカヤロー!」
あまりの恥ずかしさに私は叫んで逃げだした。あのバカポニー!私は全速力で部室に逃げこんだ。中に入って少し考える。今ごろ風丸のちくしょうめは私が言ったイチャイチャしたい伝々を豪炎寺に言ってるのだろう。そう考えたらとんでも恥ずかしくなった。ぎゃあああもう顔合わせられないじゃん!
「未来」
背後から聞こえた声に思わずびくりとする。そろそろと後ろを振り向くと笑えることにそこには豪炎寺が。風丸から聞いて追いかけてきたんだろうな。あはは今なら恥ずかし過ぎて死ねるわ。
「悪かった」
「…はっ?」
「鈍くて」
「………あー…そんなの今さらだし謝らなくてもいいよ(あのポニーやっぱりチクりやがった)」
「…どうすればいい?」
「どうすればって?」
「どうすれば……どうすれば鈍くなくなる?」
「自分で考えたら」
ちょっと八つ当たりみたいになってしまった。でもこの八つ当たりも原因は豪炎寺なんだから自業自得だ。だからちょっとぐらい意地悪したって良いだろう。私がむすっとしていると、豪炎寺が近づいてきた。「未来、」見上げると視界いっぱいに豪炎寺の顔が見えたと思ったらそれが近づいてきて、そっと触れるだけの小さな優しいキスをされた。そういえば初チューじゃん。付き合って二ヶ月で初チューってどんだけ鈍いんだと言いたいけど、自分からキスするなんて豪炎寺にしては上出来だし、言わないでおいてあげよう。私、豪炎寺大好きだから、さ。
さくらんぼキッス
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ヒロインが上から目線過ぎる