小説 | ナノ



やばいやばいどうしよう。遅れちゃった。私はこれ以上にないくらい焦っていた。今日もいつも通りヴァルツと一緒に店に行こうとしたのだけど、寝坊した上に今日に限って牛がなかなか言うことを聞かなくて、お店に行く時間が遅れてしまったのだ。やばい。完全にヴァルツ先に行っちゃった。今日は木曜日で、一週間のうちの最終日なのに。今日行けないなんて落ち込むなぁ。いつもはこの辺で合流するのに、と私がとぼとぼと店に向かって歩いていると「…あれ?」腕を組んで、木に寄りかかって立っている見慣れた人がいた。間違いない。ヴァルツだ。
なんでいるの、と私が唖然としているとヴァルツが私に気づいた。突っ立ってる私を一瞥すると、ヴァルツは何も言わずに歩き出した。私ははっとして慌ててその後を追った。いつもどおり、ヴァルツの隣を歩く。私はなんとなくヴァルツの横顔をちら見した。いつもどおり変わらない、無表情。私はいつの間にかヴァルツの綺麗な顔をじぃーと見つめてしまっていた。美形だなー、なんて思っていると、突然ヴァルツがこっちを向いたからぎくりとして心臓が飛び出したかと思った。



「今日は何かあったのか」

「あ、ね、寝坊しちゃって」

「そうか」



再び、沈黙。歩きながら私はもしかして、と思った。



(もしかして……待っててくれた?)



そうじゃないかもしれないけど。勘違いで、思い違いかもしれないけど。もしかして、もしかしたらだけど。
私は気づかれないようにそっとヴァルツをもう一度盗み見た。冷たくて相変わらず無表情だけど、綺麗で端整な、顔。
私はその無表情の横顔に小さな優しさを感じた気がした。



もしもに夢見る木曜日





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
まだ続きます。



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