小説 | ナノ


サイクスには心がない。あくまでもノーバディであって、人間じゃない。私とは違う、生き物。
私はそれを理解し、承諾した上でサイクスに近づいた。サイクスといると嬉しくて楽しい気分になれた。サイクスにも私と同じ気分になって欲しかったけど、彼はノーバディだからそれは望めなかった。だけど私は一瞬だけサイクスに心があるように思えた瞬間があった。それは彼が一瞬だけひどく人間らしい表情をするからで、その時だけサイクスに心がないなんて信じられない、と思ったのだ。

でも、けれどもけれどもけれどもけれども。
彼は心に強い執着を持っていた。私と知り合った時にはもう、サイクスは心を持っていたんだって。私は心なんかなくとも恐怖や怒りの記憶があるように幸せや歓喜の記憶はあるはずだから、私はせめてその幸せの記憶を少しでも引き出してあげようとしていた。でももうサイクスは心を持っていた。だったら、少しは幸せな気分になってくれてたかな。私を覚えていてくれたかな。



「お前といると、心がなくとも楽しかったよ。ありがとう」



かんしゃのことば。うれシイな、でも、ぜむなすがわたしはサイクスとおなじなんだっていってた。私は、にんげんじゃなかったみたい。わたしがそう思ってただけなんだって。じゃあ、わたしもあなたとおなじのーばでぃなんだよ。
でもくやしいなあ。サイクスのかんしゃのことば、わたしが存在していた時にいってほしかったな。残念。でも、ちゃんと聞こえたから、いいっか。



こうしてわたしはきえました



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