小説 | ナノ



染岡姉は思ったよりパワフルな人間だった。
それになんというか、積極的な性格をしていた。彼女は友好的でもあるし、知らない人ともすぐに仲良くなった。ただ問題は、その仲良くなった人が女に限ったことではないと言うことだ。



「未来、ちょっとドリンク買って来てくれないか?」

「うんいいよー、円堂。何本?」

「そうだな、8か7か…あ、重くなりそうだから俺も一緒に」

「待て、俺も行く!」

「え?別に三人で運ぶほどの量じゃないよ」

「じゃあ俺と姉貴で行くからそれでいいだろ」

「でも染岡ってまだ練習残ってるんじゃなかったか?」

「うっ、」

「あ、じゃあ私半田と行こうか?」

「もっとダメだ!」

「えー?じゃあ……」



そこで非情にも染岡姉とばっちり目があってしまった。おいまさか、



「鬼道と行くよ」

「鬼道と?」



俺の名前が出たのが珍しかったのか、染岡は意外な顔をした。円堂も同じ顔をしている。ああ面倒なことになった。染岡がうるさいから染岡姉とはあまり関わりたくなかったのに。



「鬼道ならいいじゃないか?練習も残ってなさそうだし」

「そうだよ大丈夫だよナンパされたら鬼道に守ってもらうからさ」!

「ああ、姉貴はナンパされる心配ゼロだから大丈夫だ」

「ちょっと竜吾ォォォ」



あの姉弟は少し矛盾した面がある。染岡は姉を可愛く思っていながらも、からかって面白がるところがあり、それに対して今のように姉がツッコミをいれる、みたいな。端から見ると漫才のように見えて少し笑えるが、笑うとまた姉のツッコミが飛んでくるという体験を前にした。
というか今の話から察するに俺も買い物に付き合わされるのか。別に買い物に行く自体は構わないのだが、染岡姉と話したことがあまりないのでふたりで行くことに少し抵抗があった。



「鬼道、聞いてた?」



気がつくと未来が隣にいた。俺が「ああ」と言うと、「一緒に行ってくれる?」と聞いてきた。



「俺は構わない」

「じゃあ行こうか」



待て俺はまだ納得してないぞとぎゃあぎゃあうるさい染岡を染岡姉は無視すると「行こうかー」と俺の手を引っ張ってきた。それから近くのスーパーで買い物を済まし、店を出たところで染岡姉がドリンクの入った袋を重そうに持っていることに気がついた。



「えーと…染岡、それ、やっぱり俺が持とうか?」



呼び名に一瞬困ってそう言うと染岡姉は首を横に振って言った。



「ううん。大丈夫。持てる」

「そうか」

「あのさ鬼道、私が言うのもあれなんだけど」

「?、なんだ?」

「名前で呼んでもらっていいかな」

「は?どうしてだ?」

「染岡って竜吾とかぶってやかましいじゃん。みんな私のこと未来って呼んでるし、鬼道もそう呼んだらどうかなーって」

「……じゃあ、呼ばせてもらうか」

「うん。あのさ、私も有人って呼んでもいい?」

「好きにすればいい」

「うん」

「………」

「………」

「………」

「…ゆ、有人」

「なんだ」

「あの、変なこと聞くけど…私のこと嫌い?」

「は!?」

「いや、ちょっと避けられてる気がして」

「嫌ってはいない。ただあんまり近づくと弟の方がうるさいだろう」

「ああなるほど…。じゃあ竜吾にはきつく言っておくかな」

「効果あるのかそれ」

「うーん、効果あったことはないけど、なんかもう日課っていうかなんというか」

「……」

「今ちょっと笑ったでしょ」

「…わ、笑ってない」

「いやいや、うそつけよ」

「やはりそれは俺が持とうか」

「あっはぐらかした」



なんていろいろと話しながら帰ってきたら染岡に「いつの間に仲良くなったんだ」と悔しそうに言われた。やっぱりこいつは筋金入りのシスコンだ。



シャルマンシスター2
(さっき有人が私のこと笑ったんだよ)
(違うあれは未来の誤解だ)
(いつから名前で呼び合うようになったんだお前らァァァ)





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