能力強化 | ナノ
私はアクセラレータの家を出た。だがアクセラレータは私が家を出ていくのを止めなかった。それは多分、私がかばんを置いて出て行ったからまた戻ってくるとでも思って止めなかったのだろう。だけどもう絶対戻らない。誰があんな奴のところに戻るか。外はもう夜になっていた。一体何時だろうか。携帯がかばんの中にあるので時間すらわからない。そのことで私の怒りはさらにグレードアップしていった。ふざけんな。なんでこんな目に合わなきゃならないんだ。私はイライラしながら町に出た。まだ人通りがあるし、きっとまだ夜中ではない。それにしても問題は、これからどうするかだ。残念ながら私に友達はいない。いや、いるっちゃいるのだが、夜にいきなり「泊めて」なんてことを言えるような友達ではない。というかむしろ、友達というより知り合いといった方がいいのかもしれない。つまり私には行くあてがない。私は今日何回目になるかわからないため息をついた。なんでこんなことになったんだ。最悪だ。人生で一番最悪な日だ。私は奴の家に戻る訳にも行かず、しばらく町をふらふらしていた。どれだけ歩いたんだろうか。人気のない道を歩いていると、後ろから足音が聞こえてきた。それも複数。「…?」私は警戒して、後ろを見ることはしなかったものの、歩調を少し速めた。頼むから、違って。私のそんな思いを裏切るかのように、後ろから聞こえる足音も、少し速くなった。「!」私はその瞬間に駆け出していた。後ろから来る足音も駆け出し始める。どうしよう。私は夜に人気のない通りで複数の人間に追いかけられ、恐怖を感じていた。怖い。誰か、誰か―――
私はとにかく必死に走って逃げたが、後ろから追いかけてきた奴らに追いつかれ、髪を引っ張られた。


「いっ…!」
「お前、この前の女だろ?この前はよくやってくれたな」


暗くて微妙にしかわからないが、その顔には少し見覚えがあった。アクセラレータに初めて会った時に私を囲んでいた不良達の中にいた顔だ。そいつは私の髪を引っ張ったままにやつきながら言った。


「あのアクセラレータって奴の家、どこだよ」


一瞬言おうかと思ったが、私は「…知らない」とぶっきらぼうに言った。あいつを庇ってやる義理はないけど、この不良達があいつのところに行ったところでどうにもならない。


「嘘つくな」
「ほんとに知らない。あいつはたまたま通り掛かっただけで、ほんとに知らないってば」
「ふーん…」


諦めてくれただろうか。そう思ったが、彼らはそれで私を許す気はないようだった。「じゃあいいや、あんたで我慢するから」リーダーっぽい奴が私の肩を掴んだ。「っ…放してっ!」不良達はにやにやしながら私を抑えつけた。私はもちろん抵抗したが、奴らには無駄だったようだ。私は恐怖で頭が混乱していた。嫌だ嫌だやめて怖い放して。そんな単語しか出てこない。そんな時だった。


「よォ、楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ」


聞き覚えのある声だった。不良達が一斉に声の聞こえた方を向く。そこには黒い暗闇の中、浮き立つように白い少年が立っていた。アクセラレータを見た不良達が怒声をあげた。


「てめぇ!この前はよくもやってくれたな!」
「ああン?この前?…ああ、お前あン時の奴らか。弱すぎて顔も覚えられなかったぜ」


アクセラレータの挑発に、不良達はどうやら我慢が限界を超えたらしい。バットやらなんやらを持ち出し、アクセラレータを囲んだ。並の奴なら腰を抜かしているところだろうが、アクセラレータは並以上の男だ。ポケットに手を突っ込んでいつもどおり変わらない様子だ。不良達が罵声をあげてアクセラレータに遅いかかったが、やはり跳ね飛ばされた。しかも今度は手首の骨まで折ったようだ。不良達全員が倒れてうずくまり、うめき声をあげている。


「なんなンですかァ?その弱さはァ。それで俺を倒そうなんて笑わせるぜ」


アクセラレータはにやにやと笑みを浮かべると、唖然として立っている私の方を見た。私は思わずびくりとする。


「お前はどうすんだァ?」
「ど、どうするって…」
「俺ン所来んのか、外うろついてこいつらに襲われるか、どっちかって聞いてンだよ。…あァ、面倒はちゃんと見てやるぜ。生活には困んねぇよ」


まァ俺ン所来たかったら戻って来い。そう付け足すとアクセラレータは家に向かって歩き始めた。私は躊躇したが、ほとんどやけになって奴の後についていった。こうなったら金ふんだくってやるからな。私はむかむかしながら、ずんずんと、でも重いあしどりで歩いていった。
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