能力強化 | ナノ
意味がわからない。俺と来い?何言ってんだこいつ。馬鹿じゃないのか。行く訳がない。いつまでも放す様子が見えないのに、私はだんだんといらつきを覚えてきた。「ねぇ、いい加減放して――」私の声は途中で途切れた。なぜなら、アクセラレータが多分、能力を使って私を気絶させたからだ。まあ気絶した私には確かなことはわからなかったが。





…気がついたら知らない部屋にいた。起き上がろうとすると、お腹にずきっと痛みがはしった。アクセラレータめ、女の鳩尾にパンチいれやがったのか。私は辺りを見回した。私が寝かされているのはベッドで、寝室らしかった。私はとりあえずベッドから降りると、出口と思われるドアを開いた。覗くとそこは廊下で、私はそっと足を踏み入れた。向かって右側が玄関、左側がリビングになっているようだった。私は右に進みたかったが、忌ま忌ましくも私のかばんが寝室になかったので、左のリビングに進んでかばんを探す方法を選んだ。かばんの中には財布やらの大切なものが入っている。ないとかなり困るのだ。リビングに進むと、ソファーにアクセラレータが寝ていた。お腹の上に私のかばんを乗せて。なんてことだ。私はゆっくりとアクセラレータに近づくと、そっとかばんに手を伸ばした。もう少し。かばんに指先が触れるか触れないかというところで、横から伸びてきた手に私の手首を掴まれた。「!」思わずびくっとして身を引いた。


「よォ、起きたのか」
「…バッグ返して」
「それは無理だなァ」


アクセラレータはにやりと笑って言った。憎たらしい。私はため息をついた。それと裏腹に私は、アクセラレータの能力が勝手に発動しなくてよかった、と安心していた。不意に私に触ると勝手に能力が発動してしまう時があるのだ。今手首を掴まれた時は完全に不意ではなかったので発動しなかったようだった。私は手首を掴むアクセラレータの手を振り払った。


「ねぇ、あんた一体何をしたいの。私誘拐して一体なんになるの」
「俺はなァ、てめえの能力を買ってやってんだよ」
「はあ?」
「お前の能力を使えば俺は強くなれる」


学園都市一位のアクセラレータ様が、何を言うのだろうか。一体それ以上強くなって何がしたいんだこいつは。


「私には関係ない。バッグ返してってば」
「無理だっつってんだろォ」
「返して」「ああ、そういやァそろそろだな」


なにがそろそろなのか、アクセラレータは私を無視してテレビの電源をつけた。「見てみろよ、面白れェのやってっから」アクセラレータに急かされて、しぶしぶテレビを見てみる。調度ニュース番組が始まったところのようだった。ニュースキャスターが映り、ニュースを話し始めた。一体これが何なの――私は口を開こうとした瞬間に息をのんだ。「先程学生寮で火事が起きたようです。怪我人、死傷者共にありませんが、***室は全焼しており、住人の方を捜査中とのことで―――」ニュース番組に移っている学生寮は、明らかに私の住んでいる寮だった。ありえないありえないありえない。なんでうちの寮、しかも私の部屋が全焼してる訳?ありえなさすぎる。「全焼か、調度いいな」……なにが調度いいんだ。私は怒りに顔を歪めながらアクセラレータの方を向いた。


「ちょっと!これあんたがやったの!?」
「ああン?そうだけどなんだよ」
「ふざけんな!」
「ンな怒るなって。だから調度いいだろ、ここに住めばいいじゃねェか」


最悪だ。私はへなへなと床に座り込んだ。全部、燃えちゃったんだ。「……ほんとに最悪」全部あいつのせいだ。なんであいつに家を燃やされなきゃならないんだ。最悪だ。「ちなみに他の空いてる寮には入れないように手回してあっから、探したって無駄だからなァ」ほんとに最悪だ。
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