能力強化 | ナノ
…と、まあアクセラレータとはこんな出会い方をした。もう二度と会うまいと思っていたのに、奴は私の目の前にいて、しかもがっちりと腕を掴まれている。最悪だ。



「桃原未来、だろ?お前の名前。調べるのに結構手間取ったんだぜェ」
「…それはどうも、お疲れ様」


私はアクセラレータを睨みつけた。だが奴は変わらずにやにやと気味の悪い笑みを浮かべている。私はアクセラレータに掴まれた手を振り払おうとしたが、こんな細い腕のどこにこんな強い力があるのかってぐらい強い力で掴まれていて、振りほどけなかった。


「てめえの能力は一体なんなんだァ?」
「だから、私はLEVEL0の無能力者だって言ってるでしょ」
「嘘はやめろや。わかってんだぜェ」


そんなこと言われたって私はほんとにスキャナーに反応のないただの無能力者。「ほんとだってば」私がそう言うと、アクセラレータはいきなり私の腕を掴んでいる手とは別の手をばっと横に突き付けた。いきなりなにしてるんだ、と私が怪訝に思った瞬間、アクセラレータが手を向けた方向にあった車がまるで上から何かにプレスされたように大きな音をたててひしゃげて潰れた。「!」私は思わず息をのんだ。近くにいた人達が悲鳴をあげて車から離れる。どうやら車内には誰もいなかったようだ。よかった。周りの人達が落ち着き、今度はそのひしゃげた車に興味を持ちはじめた。車の周りにざわざわと人が集まり始める。


「俺の能力は知ってんのか?」
「……う、運動量・熱量・光・電気量、あらゆる体表面に触れたベクトルを操作できる能力」
「知ってんじゃねぇか。ならわかンだろォ?俺は皮膚に触れたものしか操れねェ」
「……」
「なのにお前に触れた時だけ俺は皮膚に触れていないものでも操れるようになった。あんな風になァ」


といってアクセラレータはひしゃげた車を顎で指した。多分、車の上の重力の量のベクトルを逆向きに変えたのだろう。「これは一体どういうことだろうなァ?」私はその答えがわかっていた。だが言いたくない。こんな奴に。


「減るもんじゃねぇだろ。言え」
「…あんた私を調べたんでしょ?じゃあ私の学校のデータも見たはず。データにはLEVEL0って表記してあったじゃん。私は無能力者なの」
「だから聞いてンだよ。あんなことが起きる原因はお前以外に考えられねェ。なのになんでお前のデータにはLEVEL0と表記してあンのか。それが知りてェだけだ」


アクセラレータはそう言うと、私の腕を掴む手に力を込めた。痛い。私は思わず眉をひそめた。「早く言えよ。あの車みたく潰されてぇのかァ?」アクセラレータのその言葉に、私はため息をついた。もうしょうがない。私はぽつんと、呟くように言った。


「…ストレングス」
「ああン?」
「能力強化<ストレングス>。私の体表面に触れた超能力・魔術問わずあらゆる異能の力を強化させる」
「………」


能力強化<ストレングス>。それが私の能力だった。だが性質上検査結果(システムスキャン)には反応せず、私はただのLEVEL0の無能力者になっている。この能力のせいで私はLEVEL1以上の能力者にはあまり触れない。また迷惑なことにこのストレングスは、能力を勝手に発動させてしまう時がある。意識すれば無効化出来るが、不意に触られたりすると勝手に発動させてしまうのだ。だからあまり人に触られるのは好きじゃなかったりする。


「それでなんでLEVEL0なんだァ?」
「知らない。システムスキャンに反応しないの」
「……」
「もう話は済んだでしょ?腕放して」


私は腕を振り払らおうとしたが、アクセラレータはいっこうに放す気配がない。「能力言ったしもういいじゃん放してよ」私が言うと、アクセラレータはにやりとまた気味の悪い笑みを浮かべた。嫌な予感がする。私の願いをよそに、彼はやはり最悪なことを言い放ったのだ。


「お前、俺と来い」
「……はあ?」
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