能力強化 | ナノ
この色素の薄い野郎と知り合ったのは数日前の話になる。私がいつも通りに家に帰っていると、不良達に囲まれるというなんとデンジャラスなことが起きた。残念ながら私は不良達を蹴散らすようなすごい能力は持っていない。私が不良達から逃げ出す作戦を練っていると、道ゆく人達が見て見ぬフリをする中、ひとりの白髪の少年が不良達の近くへ歩み出た。もちろんその不良は白髪少年にけしかかる。


「んだよお前。このお嬢ちゃんの知り合いか?」
「別にそんなんじゃねぇよ。てめぇらが歩くのに邪魔なだけだ。さっさと失せろ」
「んだとぉ?やんのかてめぇ」


不良達はやってやろうじゃねぇかと今度は数人で白髪少年を囲んだ。これはまずい。やばいぞ少年、私のことなんか気にせず逃げた方がいい。だが、私のその心配をよそに、不良達は白髪少年に襲いかかった。やられる。そう思った次の瞬間、白髪少年に襲いかかろうとした不良達が、全員吹き飛んだ。


「え…?」


私が唖然としていると、白髪少年は私をちらりと見て、また歩き出した。私は思わず「待って!」と叫んだが、白髪少年は止まらずに歩き続けた。私は慌てて白髪少年の後を追いかけ、腕を掴んだ。


「…ンだよ」
「あの、さっきはありがとう。助かった」
「別に俺はあいつらが邪魔だっただけでお前のためにやった訳じゃな―――」


いきなり私と少年の間に突き抜けた、閃光。驚いて横を見ると、さっき突き飛ばしたはずの不良がなにか能力を発したようだった。すると少年が、その不良を睨みつけた。瞬間。その不良はまた、今回はずいぶんと遠くに吹っ飛んでしまった。どうもこの少年、能力者らしい。だが今の現象に、よくわからないが少年自身も驚いているようだった。ぽかんとしている。私はすぐにピンときた。もしかしたら――――。私が口を開こうとしたら、少年は私の腕を掴んで無理矢理引っ張って歩き始めた。「ちょ、ちょっと」私は慌てて後につづいた。


私は腕を掴まれて引っ張られている間、少年に色々と文句を言って見たのだが、少年は完全に無視だ。腕を振り払おうとしだがそれも無理だった。なんだこいつ。人さらいか。しばらく歩くと、人通りの少ない建設中の工事現場に辿りついた。そこでようやく腕を離してくれた。もう、一体なんなの。私がそう言う前に、少年の方が先に口を開いた。
「お前、なんなんだァ?」
「えっ?」
「なんの能力を持ってる?」
「えっ、わ、私は――」


言おうと少年の顔を見て、はっとした。この顔、まさかこの人……
私が唖然としていると、その少年は有り得ないことをしてきた。有り得ないというか、信じられないことを。あろうことか少年は、私に向かって石を蹴ったのだ。しかも有り得ないスピードで。その石はわたしの腕にクリティカルヒットした。


「いっ…!」


あまりの痛みに私は思わずよろけた。痛みに顔を歪ませ、腕をもう一方の腕で抱えるように掴んだ。尋常じゃなく痛い。痛すぎる。それにしてもこいつ。なんなんだ。いきなり有り得ないスピードで石を蹴るなんて頭おかしいんじゃないか。私が睨むと、少年はまた不思議そうな顔をした。


「なんだァ?今のも避けらんないのかよ。能力者じゃねーのか」
「私はレベル0の無能力者だよっ…」


一応。そう心の中で付け足した。思い出した。こいつ。アクセラレータ<一方通行>だ。学園都市最強の。だからあんなに強かったのか。するとアクセラレータは私の腕をまた掴んだ。しかも痛い方を。「いたっ!」痛がる私を見て、アクセラレータは鼻をならした。…なんで石を投げつけられた上に鼻で笑われなきゃいけないんだ。


「レベル0かよ。全くとんだ勘違いだったぜ」
「……もう用が済んだ?なら私は帰っ――」


がこんっ!金属同士がぶつかり合うような音が真上でした。見上げると、赤褐色の鉄骨が何本か落ちてくるのが見えた。ああ、死ぬ。私は目をつぶりそうになったが、今度は鉄骨が吹っ飛んでいったのを見て目を見開くことになった。鉄骨は大きく反れて、私たちがいる場所よりちょっと遠い場所に大きな音をたてて墜落した。ぶわっと、ものすごい砂煙があがる。私はその瞬間、はっとしてアクセラレータの手を振り払って逃げた。「っ!おい!待って!」アクセラレータの制止の声が聞こえたがもちろん無視。私は工事現場の外に逃げて、集まってきたやじ馬達の中に紛れた。するとそのやじ馬の中に見知った人物が。


「黒子ちゃん!」
「あら、桃原じゃないですの。こんなとこで何をしてるんです?」
「そんなことより早く私をこっからテレポートさせて!」
「はい?一体どこに…」
「どこでもいいから早く!御坂の写メ送ってあげるから!」
「ほ、本当ですの!?一体お姉様のどんな――」
「いいから早くテレポートして!」


私が早く早くと催促すると、私の知り合いであるジャッジメントの白井黒子は、己の能力であるテレポートで私の家からかけ離れた所まで送ってくれた。まあ逃げられただけでもよしとするか。
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