恋揺らし | ナノ
円堂くんは私の話を聞いたあと、いきなり立ち上がった。私が首をかしげて円堂くんを見上げると、彼はサッカーボールを手にしていた。なにをするんだろうか?私がそれを聞く前に、円堂くんは私に笑いかけてきた。


「よし!サッカーしようぜ!」
「…は?」


いきなり何かと思った。ぽかんとしている私を気にもせず、彼はにかっと笑顔を向けてくる。腕を掴まれて立ち上がされた。混乱してる私をよそに、円堂くんは私から数メートルほど離れた。サッカーボールを地面に置き、行くぞおー!、なんて声が聞こえた。
「え、あっちょっ待って」私の話なんかには耳もくれずにサッカーボールを蹴ってきた。私は慌ててボールを足で受け止めた。


「上手いじゃないか!」
「あ、ありがとう…じゃなくてなんでいきなりサッカー?」


私はしゃべりながら無意識でサッカーボールを蹴っていた。円堂くんは変な方向へ行ってしまった私のボールを慣れたように追いかけて受け止めた。


「俺さあ、嫌なこととか悩んんでることとかあったら、昔からよくここでサッカーしてたんだよな」と、蹴る。
「だから私にもさせよう、ってことー?」と、蹴る。
「そういうこと。運動するとすっきりするだろ?」と、蹴る。
「たしかに言えてるかもしれないっ」と、明後日の方法へ蹴ってしまう。


「わーっごめんっ!」
「大丈夫大丈夫!」


円堂くんが跳んで行ってしまったボールを取りに走って行く。それから戻って来た円堂くんとしばらくボールの蹴り合いをしていた。気がついたら辺りはもう暗くなっていて、私ははっとした。


「もうこんな暗くなっちゃったんだ…」
「そろそろ帰るか」
「うん」


ボールを拾って、円堂くんとふたりで帰った。駅まで送ってくれるという円堂くんの申し出があったけど遠慮した。そんなに暗くて危ないわけでもないし、これ以上他の男の子といるのはさすがにまずいと思ったからだ。円堂くんとは途中で別れて、一人で駅までの道を歩く。私は機嫌が良かった。円堂くんのおかげですっきりした気がした。鼻歌を歌いながら歩いてたら通りすがりの人に怪訝な顔で見られた。は、恥ずかしい…!
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