恋揺らし | ナノ
私は写真を手にしたまましばらくショックを受けて唖然としていたが、源田くんが階段を上ってくる音を聞いてハッとすると、慌てて写真を元に戻した。


「高野、麦茶で良かったか…ってなに見てるんだ?」
「あ、あの、サッカー部の写真あったから…」


私は必死に写真を見たことを隠そうとした。ばれてないかとドキドキしていたけど、今度は逆に源田くんがギクッとした顔をした。多分、源田くんはサッカー部の写真立ての下に元カノの写真を入れておいたのを思い出したのだろう。私はそれを見てさらに隠し通そうという気持ちが強まった。源田くんは麦茶を机の上に置くのに写真立てが邪魔なふりをして、写真立てを奥にやるとぱたんと倒した。源田くんは演技が下手らしい。顔に表情が出てるし、行動がわざとしくてしょうがない。


「そ、それよりもさ」
「え?なに?」
「えーと……あ、そうだ。高野マネージャーにならないか?」
「えっ?」


マネージャー?私が?源田くんは何事もなかったように熱く語り始めた。サッカー関係の話になると切り替えが早い。高野がマネージャーになってくれれば、俺待って一緒に帰るとかめんどくさいことしなくて済むし、なにより一緒にいる時間が多くなるだろ?それに高野に俺達のサッカーを見ていてほしいんだ。それで――――…源田くんは止まることなく口走った。私はただうんうんと頷いて話を聞いていた。もし私がマネージャーになったら、きっと周りの辺見くんとか、佐久間くんとかは私をいやな目で見るだろう。聞く話、サッカー部の人達と元カノさんは仲が良かったらしい。だから元カノさんの幸せを奪った私は、サッカー部員の人達から見たらおもしろい訳がない。むしろ忌ま忌ましい存在だろう。わかってはいたもののその事実は深く私の胸に突き刺さった。「どうしたんだ?」どうやら表情が顔に出ていたらしい。私は慌てて笑顔を作ると「なんでもないよ」とごまかした。すると源田くんの顔が曇った。どうも私も、相当演技が下手らしい。
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