恋枯らし | ナノ
ふあーあ、と大きくあくびをしたら、もう少し女の子らしくしたらどうなのと夏美ちゃんに怒られた。眠いと勝手に出てくるんだもん不可抗力だよ。そう思ったが私は素直に夏美ちゃんに謝った。自分でも屁理屈にしか聞こえないからだ。私はドリンクを作ったりタオルを運んだりしながら、不動大丈夫かな〜と思っていた。一晩で完全に治る訳ない。治ったように思えて治ってないのが怪我だ。それに不動はああいう性格をしているから、足がまた痛もうが完全に無視して痛くない治ったと言い張るだろう。私は過去に同じ事を言って怪我を悪化させた馬鹿を知っている。まあその馬鹿というのは今私が現在付き合ってる源田であるのだが。あいつは、いやあいつに限ったことじゃない。サッカー大好きなサッカー馬鹿はみんな無茶するのだ。見守る側にしてみれば不安で仕方ないというのに。源田も不動もそうだが、サッカー馬鹿の代表は円堂だと思う。秋ちゃんや私たちにどんだけ迷惑と不安をかけてるかも知らないであの馬鹿は無茶する。それに最近は他のみんなもサッカー馬鹿が悪化してきた気がする。まあそんなこんなで彼らは宇宙一のサッカー馬鹿なんだが、私はそのまっすぐに突き進むサッカー馬鹿達が大好きなのだ。まっすぐにサッカーに突き進む馬鹿さが私は嫌いじゃない。まあ無茶するのはやめて欲しいけど。そう思ってなんとなくサッカーしてる皆をちらりと見ると、みんなすいすい動いている中、一人だけちょっと遅れて行動している人がいた。その人物は珍しいことに不動だった。不動の性格は熟知…とまではいかないが、まあそこそこは知ってるつもりだ。不動は先ほど言った通り怪我しても怪我してないような素振りをする。だから不動が私でも怪我してるとわかるくらいの行動をしているということは、相当の痛みがあるということだ。馬鹿だ。あんだけ忠告したのに無茶しやがった。私ははあ、とため息をつくと監督に話をつけに行った。多分監督も気づいてはいるんだろうけど、あの人はちょっとあれだから誰かが話をつけないと休ませてくれないだろう。




休憩という名の口実タイムが入り、みんなわいわいとドリンクを受け取ったりしている。私は迷わず不動に向かってまっすぐ歩いていって、腕をガシッと掴んだ。不動は一瞬、ちょっと驚いた顔をしたがすぐに眉間にしわを寄せて「なんだよ」とか言ってきた。なんだよじゃねーよこのあんぽんたん。私は「来て、」不動の腕を掴んだまま歩き出した。こんなみんないるところで不動が治療なんか受ける訳がない。不動は最初抵抗していたが、すぐに諦めて黙ってついてきた。多分、足が結構痛むから。私は二回目のため息をついた。サッカー馬鹿の代表は円堂だけど、無茶するという点では不動も円堂も一緒なようだ。ようやく一目につかないところに来たので、私は不動の腕を放した。


「足見せて」
「……」
「強がるとこじゃないでしょうが。早く見せて」


私の言葉に不動は観念したようだ。ちっと舌打ちすると、私が用意しておいたパイプ椅子に乱暴に座った。座った不動を見て、私はふうっと安堵の吐息を吐いた。素直に言うこと聞いてくれて良かった。私は不動の前にしゃがみこんだ。靴を脱がそうとしたら不動が「自分でやる」と言って自分で脱いだ。私は小さく笑うと、「そっか」と呟いて今のうちに救急箱から湿布とか色々取り出しておいた。不動が靴下を脱いだのを見て私は少し驚いてしまった。不動の足首が予想外に腫れ上がっていたからだ。そんなにひどいという訳じゃないが、でも予想以上に赤く腫れていた。すると頭上から機嫌の悪そうな舌打ちが。見上げると不動が「早くしろ」なんて顔で私をものすごい形相で睨んでいたからちょっとびっくりして慌てて治療をし出した。今日はすごく機嫌が悪いみたいだ。話しかけないでいよう。私がそう思って黙っていると、「…おい、」驚いたことに不動から声をかけてきた。


「え、なに」
「…悪かったな」
「え?」
「…悪かったつってんだよちゃんと聞きやがれ!」


頭が混乱した。不動の発言にはいっぱい謎なことがあって良くわからないんだけど、とりあえず一番になんで?って思ったのは不動が「悪かった」って言ったことだ。意味不だ。なんで不動が謝るんだろう。ていうか不動が謝ったとか何。今日嵐が来るんじゃね?なんて思っていると不動が「なんとか言えよ!」とか大声を張り上げるのでびっくりした。


「え、ええと、なんで?」
「はあ?」
「なんで不動が謝るの?」


私としては素直な質問をそのままぶつけたのだが、不動には何故か不機嫌をプラスする原因になってしまったようだ。不動はぐっと眉をひそめ、イライラした様子で「なんでもねぇよ!!」と大声で一言。いやなんでもないとか言われたってそんなあからさまにイライラされたら私は一体どうすれば。混乱した頭で考えた結果、私はとりあえず今は不動の足の治療を優先することにした。不動もそれっきり黙ってしまって、もう何も言ってこない。私は湿布をはがれないようにテープと包帯で固定しながら何故不動が謝ったのかを考えた。答えは案外すぐに予想がついた。もしかして不動、私の忠告を聞かなかったことを謝っているのだろうか。それならさっき不動が不機嫌になったこともつじつまが合う。考えた結果で一番高い可能性だが、果たしてあっているのだろうか。私は不動に聞いてみることにした。


「あの、もしかして忠告聞かなかったこと謝ったの?」
「………」
「だったら、あの、ごめん。わかんなくて」



顔をあげるのがちょっと怖くて不動の足元を見ながら言ったら、不機嫌そうな声が上から降ってきた。


「……別に」
「うん、ごめん」


なんて言えばいいかわからなくてまた謝ったら、乱暴に頭に手を置かれた。置かれたというかガシッと掴まれた。


「ええええちょっとなに」
「うるせえ黙れ」


私が抵抗したら不動はミシミシと音がするんじゃあないかってぐらい強く頭を掴まれた。「いだだだだだ」不動は私に一体何を求めてるんだろうか。私は一体何をどうすればいいんだ。私が大人しくなると不動は私の頭をそのままに一言だけ呟いた。


「…ありがとよ」


私が頭をあげようとしたら思いっきり頭を下に押し付けられた。痛い。頭から手が離れて私が慌てて顔を上げるともう不動は椅子から立ち上がって走り去ってしまっていて。私は不動の後ろ姿を見ながらしばらくぽかんとしていた。だけど後から不動の言葉が頭に浮かんできて、思わず顔の筋肉が緩んだ。にやっと笑ってしまう。一言。たった一言だったけど、不動という人物が少しだけわかった気がした。ちょっと、嬉しいかも。
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