恋枯らし | ナノ
「不動、足どう?治った?」


朝、寮で顔をあわせると桃原は一番にそう聞いてきた。俺はぐっと眉をひそめると「…治ったよ」機嫌が悪いことを剥き出しの低い声で答えた。だが桃原はおびえる様子もなく「そっか。良かったね」と言うとさっさと朝食を食べに食堂に行ってしまった。桃原の後ろにいた木野は俺の機嫌の悪さにすっかりおびえている。「まっ、待って未来ちゃん!」ばたばたと桃原の後を追って走っていった。俺は桃原と木野が走っていくのを見ると「…けっ」と一人で吐き捨てて食堂に向かった。朝っぱらからめんどくさいのと顔をあわせてしまった。




食堂に行くと俺はどうやら後の方だったらしく、席のほとんどがうまっていた。俺は舌打ちすると、見回して空いている席を探した。できれば綱海と円堂の隣にはなりたくない。あいつら一番うるさいから。見回すと、空いている席を二つ見つけた。一つは隣に綱海、前の席には円堂がいる席。これはもちろん却下。だがもう一つの席の隣は。俺は二回目の舌打ちをした。もう一つの席の隣は桃原だ。なんで好き好んであいつの隣なんかに座らないといけないんだ。だが綱海と円堂に比べれば幾分かマシかもしれない。俺は少し考えてから、桃原の隣に座った。綱海にうるさく話しかけられるぐらいだったら、桃原の方がまだ良い。俺は黙ってトレーに乗せたカレー(最近多いのは何故だ)を食べ始めた。隣の桃原は鬼道となんか話している。話しかけられることはなさそうだ。俺は内心でほっとしながら黙々とカレーを食べた。それからしばらく経ち、俺がカレーを食べ終えるかというところで、桃原が話しかけてきた。


「不動不動」
「…んだよ」
「足なんだけどさ、やっぱ心配だから後で見せてよ」
「はあ?治ったつってんだろ」
「一応だから。大丈夫ならすぐ終わるって」
「知るかよ」


俺はカレーを食べ終えると、さっさとトレーと皿を片付けて自分の部屋に向かった。後ろから俺の名前を呼ぶ声がしたが、俺は面倒くさくて無視した。うざい。足なら痛みもほとんどなくなったし、ほぼ完治だろう。俺は自室に戻ると、一番にベットに寝転がった。だいたい足首痛めただけで大げさなんだよ、と俺は思う。なのにあいつは無駄なお節介をやいてくる。ありがた迷惑だ。源田はあいつの何処がいいのだろうか。あんなお節介やき、ただうざったいだけだ。だいたい、俺はあんな、にこにこしてまるで太陽みたいな笑顔向けてくるやつが嫌いなんだ。ただ、円堂のようにまっすぐしたところは嫌いじゃない。だけど俺は桃原のまっすぐしたところを見たことがない。だから俺はあいつがうざったく感じる。突き進むものがなんにもないなら、そんな笑顔を向けるのはやめろ。うざったい。すると俺の頭に、ぽつんと考えが浮かんだ。あいつのまっすぐしたところ、あったかもしれない。そこで俺はふと、さっきからずっとあいつのこと考えてることに気づいた。すぐに自己嫌悪に陥って、舌打ちをして眉間にしわをぐっと寄せた。あいつに関わってから、俺はいつも舌打ちばかりしている。
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